Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム8
組織エラストグラフィーの現況と展望

(S167)

消化管疾患に対するElastographyの応用

Application of Elastography to gastrointestinal disease

齋藤 あい1, 畠 二郎2, 今村 裕志2, 石井 学3, 眞部 紀明2, 春間 賢3

Ai SAITO1, Jiro HATA2, Hiroshi IMAMURA2, Manabu ISHII3, Noriaki MANABE2, Ken HARUMA3

1川崎医科大学 消化器外科, 2川崎医科大学 検査診断学, 3川崎医科大学 内科 食道胃腸科

1The Dept. of Digestive Organ Surgery, Kawasaki Medical School, 2The Dept. of Clinical Pathology and Laboratory Medecine, Kawasaki Medical School, 3Division of Gastroenterology, Dept. of Internal Medecine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【背景と目的】
消化管疾患の超音波診断上,壁の硬さは炎症性疾患と腫瘍性疾患の鑑別などに有用であり,X線二重造影や内視鏡診断においても壁の硬さを把握することは詳細な診断に役立つ.超音波を用いて組織弾性を客観的に映像化する手法としてElastographyが注目されており,乳腺,甲状腺,前立腺,肝臓,膵臓などの領域で有用性が報告されているが,消化管疾患に対する有用性の検討に関する報告は皆無に等しい.そこで消化管疾患におけるElastographyの有用性を検討した.
【対象と方法】
各種疾患症例30例(胃癌11例,大腸癌15例,クローン病3例,小腸悪性リンパ腫1例)を対象とした.超音波装置は東芝社製SSA-790A,8 MHzリニアプローブを用いた.全例特殊な前処置は施行せず,病変が明瞭に描出される部位で呼吸を停止し,病変直上においてプローブで用手圧迫を行った後に機器内蔵のソフトを用いてストレイン値を算出した.病変ならびに近接する正常壁両部位のストレイン値を測定し,正常壁のストレイン値を病変のストレイン値で除した値を病変の硬さを反映する指標として使用した.また7例では摘出標本に対してのみ,3例では生体内および摘出標本両者に対しても同様にElastographyを行った.なお本研究は院内倫理委員会の承認ならびに患者からのinformed consentを得て行っている.
【結果】
全例においてストレイン値の測定は可能であり,圧迫など検査手技に伴う重大な問題は経験しなかった.正常壁のストレイン値を病変のそれで除した値(正常壁に対するストレイン比の逆数)は胃癌13.0±9.1(mean ± SD) ,大腸癌15.9±17.2,胃癌摘出標本4.9±1.9,大腸癌摘出標本は4.3±0.8であった.また,クローン病の狭窄性病変16.9±22.4,小腸悪性リンパ腫2.4であった.術前術後で検討できたのは大腸癌3症例であるが,術前(生体内計測)6.9±1.5,摘出標本4.8±0.9と両者間に多少の差はあるもののいずれも正常壁に比して硬い傾向が見られ,消化管においてもその測定値はある程度の信頼性を有しているものと考えられた.
【考察】
組織の過剰な繊維化などにより消化管の癌は正常組織と比べて硬いものが多いとされているが,今回の検討においていずれの癌も正常壁に比較して低いストレイン値を呈していたことから腹腔内の管腔臓器である消化管においてもある程度の評価が可能と思われた.乳腺や甲状腺などの体表臓器と異なり,外力が直接伝わりにくい部位であると思われるが,圧迫による腹腔コンパートメントの圧上昇などもひずみを生ずる原因になっている可能性も推測された.ただし病変に加わる外力を基準化することは非常に困難であり,従ってストレイン値そのものは異なる個体間での比較に適さないと考えられることから本研究においては近接する正常組織との比を採用した.今回の検討では個々の症例によりストレイン比にばらつきが見られたが,真に組織性状を反映した結果であるのか,測定誤差など他の要因が介入しているのかなどに関しては今後の継続検討を要する.
【結語】
Elastographyの消化管領域における臨床応用の可能性が示唆された.今後鑑別診断を含めたより詳細な病態の評価法として期待される.