Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム8
組織エラストグラフィーの現況と展望

(S166)

相対的・絶対的エラストグラフィーによる子宮頸管硬度評価と産科領域での臨床応用

Definition of uterine cervical consistency using referential and quantitative elastography technique: A basis for clinical use of the method in Obstetric prognosis

成瀬 勝彦1, 重富 洋志1, 大野木 輝1, 佐道 俊幸1, 吉田 昭三1, 吉澤 順子1, 平井 都始子2, 小林 浩1

Katsuhiko NARUSE1, Hiroshi SHIGETOMI1, Akira OONOGI1, Toshiyuki SADO1, Shozo YOSHIDA1, Yoriko YOSHIZAWA1, Toshiko HIRAI2, Hiroshi KOBAYASHI1

1奈良県立医科大学 産婦人科学教室, 2奈良県立医科大学 中央内視鏡・超音波部

1Dept. of Obstetrics & Gynecology, Nara Medical University, 2Dept. of Endoscopy & Ultrasound, Nara Medical University

キーワード :

【目的】
生体の組織硬度を描出する超音波技術であるエラストグラフィーは未だ産科領域では実用化されていないが,子宮頸管の硬度を客観的に評価することにより,分娩開始時期の予測や児の予後に重篤な影響を及ぼす早産の予知に応用できる可能性がある.今回我々はこのような臨床応用に向けた予備的な検討として,正常・異常双方を含む妊婦の子宮頸管の部位別硬度を独立した2つの方法により測定し,正常妊娠子宮における所見を確認すると共に,臨床背景との関連を検討した.
【方法】
当院にて妊婦健診を行った妊娠12週〜40週の妊婦45名から同意を得て,日立EUB-7500と経腟e-probeによるElastography(Elasto)にて子宮頸管を描出し,領域内の相対的組織硬度をカラー記録した.得られたJPEG画像について内・外子宮口,頸管腺周囲,組織中央の各領域に分け5段階のスコアリングを行い,妊娠時期別の硬度パターンを統計学的に評価した.次に妊娠18週〜40週の妊婦38名について,持田シーメンスAcuson S2000と4C1プローブによるAcoustic Radiation Force Impulse(ARFI)を用いた経会陰剪断波速度計測(VTTQ)を行った.測定領域はいずれの週数でも確実に測定の可能な頸管前唇中央とし,この部位における剪断波速度を測定した.測定は3回以上行い,測定値(mean±SEM)はこれらの平均とした.以上のデータについて,その後の妊娠・分娩経過を診療録や分娩記録を元に照合し,統計学的解析を行った.
【結果】
Elastoにて,子宮頸管内側の頸管腺周囲はどの週数でもそれ以外の部位に比べて軟であった(p<0.01).内・外子宮口の相対的比較では16週以前は内子宮口が有意に硬く(p<0.05),32週以降で外子宮口が柔らかい傾向にあった(p=0.058).その後に切迫早産にて治療を行った例を抽出し検討したところ,16〜32週で内子宮口の方が柔らかい,もしくは内・外同等の例(5/14,35.7%)では内子宮口の方が硬い例(3/22,13.6%)に比し切迫早産の発症が有意ではないものの高率であった.エラスティシティ絶対値の測定において,ARFIによるVTTQ平均値は1.26±0.06m/sであった.この数値は妊娠中期(1.26±0.10)と後期(1.27±0.07)の間で差を認めず,また検査以降に切迫早産兆候を認めるか否かで有意な差を認めなかった.また,分娩までに要した日数,メトロイリンテルによる機械的頸管開大を要したか否かについても,有意な相関もしくは差を認めなかった.しかし,未産婦(1.18±0.06)に比し,経腟分娩経験のある経産婦(1.50±0.11)で有意に硬度が高かった(p=0.019).
【結論】
妊婦健診において近年一般的に行われるようになった経腟超音波診断において同時に施行できるElastoでは,簡便に内・外子宮口の硬度差を視認し切迫早産の予測につなげることができる可能性があり,我々の検討でも硬度パターンの異常は切迫早産の予知に応用できる可能性が示唆された.しかし,この手技は用手的な圧迫の変化により変動しやすいため,技術面での更なる検討が必要であろう.またVTTQにより,子宮頸管における硬度の絶対値が初めて示された.経産の有無による興味深い硬度差が示されたものの,現在のところ切迫早産の発症予知や分娩予測などにはつながらなかった.経会陰プローブの産科領域における有用性も含め,今後更なる検討を進めたい.