Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム7
消化管疾患における超音波診断

(S161)

消化管疾患の超音波診断は“非線形”プロセスをより必要とする

Sonographic diagnosis of gastrointestinal tract involves more non-linear processes.

藤井 康友, 谷口 信行

Yasutomo FUJII, Nobuyuki TANIGUCHI

自治医科大学 医学部 臨床検査医学

Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University School of Medicine

キーワード :

機器の改良や研究の蓄積により消化管疾患の超音波診断は近年目覚ましく発展し,「肝胆膵などの実質臓器のみの観察では有症状患者の問題解決には不十分であり消化管の観察が不可欠である」という臨床現場での必要性に耐えうる有望なmodalityとして注目されている.一方でその普及は,肝胆膵といった実質臓器と比較して必ずしも十分とはいえず,そのmodalityとしての信頼性および診断能において施設間格差が存在することは想像に難くない.すべての画像診断を「病変を抽出しその像を病理学的に解釈すること」と定義することに異論はないと思われるが,その診断プロセスがすべてのmodalityで一様とはいえず,modalityや目的とする臓器・疾患の特性に着目することが必要であり,それらを考慮した診断プロセスが消化管の超音波診断を信頼性の高いものにするのに不可欠と思われる.本発表では,肝胆膵といった実質臓器における超音波診断と消化管疾患の超音波診断それぞれの診断プロセスを比較検討することにより消化管疾患の超音波診断の特性について考察を試みた.1.病変抽出における特性:その存在部位や大きさから実質臓器の認識・識別は容易である.一方で消化管を対象とする場合,その存在部位以外に走行や消化管内腔の形態など解剖学的知識を複合させての認識・識別が必要となる.また,実質臓器における限局性病変の抽出は近傍の正常部とは異なる像を認識することで比較的容易になされるが,同様のプロセスを消化管に適応すると,正常部の認識が容易ではない消化管の場合病変の抽出に苦慮すると思われる.このことは,正常部との比較が困難なびまん性疾患(慢性肝炎など)の評価を超音波が不得手とする点と類似する.2.病変の解釈における特性:消化管疾患の超音波像は基本的に「壁の異常肥厚」であり実質臓器を対象とする場合と比較して疾患特有の所見に乏しく,一方で多彩な病態が存在するにもかかわらずその超音波像は類似することから鑑別は必ずしも容易ではない.今後病態に応じた特異性の高い所見の検討および蓄積が望まれるところであるが,現時点では,病変の部位,分布,ならびに症状や病歴などの複数の情報が互いに影響を及ぼしながら形成された情報が超音波診断であり,これら情報の複合化が不可欠であると考えられる.このような情報の複合化を成功させるために術者は超音波のみならず,消化管疾患の病態についてより精通していることが望ましい.以上より,消化管疾患の超音波診断は腹部実質臓器の超音波診断と比較して,いくつかの情報を複合させる“非線形”プロセスをより必要とすると思われる.これらは,消化管超音波検査の熟練者からすれば当たり前で無意識のうちに行っている事項かもしれないが,初心者においては系統立てて理解し,意識して検査に臨むことにより検査の信頼性の向上,ひいては消化管疾患の超音波診断が有用なmodalityとしてより広く認知されることが期待されるものと考える.
【参考文献】藤井康友.基本をおさえる腹部エコー-撮りかた,診かた.第6章 消化管疾患,羊土社,2006,p142.