Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム6
肝腫瘍の造影エコーの最先端(術中超音波含む)

(S156)

肝細胞癌に対する術中造影超音波を用いた血流診断の有用性

Significance of contrast-enhanced intraoperative ultrasonography for HCC

光法 雄介, 田中 真二, 伴 大輔, 入江 工, 野口 典男, 工藤 篤, 中村 典明, 有井 滋樹

Yusuke MITSUNORI, Shinji TANAKA, Daisuke BAN, Takumi IRIE, Norio NOGUCHI, Atsushi KUDO, Noriaki NAKAMURA, Shigeki ARII

東京医科歯科大学 肝胆膵外科

Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery, Tokyo Medical and Dental University

キーワード :

【目的】
肝腫瘍の手術における術中の超音波は必須の手技であるが,微細な血流の描出は困難である.われわれは,特に肝細胞癌に対して,術中の造影超音波による微細な血流の描出と観察により,①分化度や微小脈管侵潤の予測・診断,②新病変の発見と質的診断,③内科的治療後の再発の判定,④支配グリソンの同定,について検討した.
【対象・方法】
2007年8月から2009年12月までの,当科における術中造影超音波を施行した肝細胞癌切除例120例を対象とした.造影剤はソナゾイド®を使用し,0.5ml/回に統一して投与した.使用機器は東芝のXario XGで,プローブは術中専用のPLT-705BTH(7MHz)を使用した.造影モードはpulse subtraction-lowモードで,trapezoid scanを行なった.術前には血管造影CT,ダイナミックCT等による評価を行った.術中にはまずBモード超音波で観察し,その後造影を行い,血管イメージング,クッパーイメージングを行った.血管イメージングではMFI法を併用し,病変内の微小な血流を描出した.クッパーイメージでは病変とともに全肝を検索し,新たに病変を認めた場合は,適宜造影剤の再投与を行い,defect re-perfusionイメージングで腫瘍血管ありと判断したものを切除した.切除標本はなるべく画像の断面と一致する割面で病理組織学的に評価した.
【結果】
①:腫瘍の病理組織学的分化度が低分化になるにつれて腫瘍全体の血流は減少し,太く直線的な血管が不規則に流入する傾向にあることを見出した.術前治療による血流変化がない,大きさ1〜3センチの35結節について検討すると,19例にこの太く直線的な血管を認め,thunderboltパターンとした.このパターンのものは,そうでないものに比べ,有意に分化度が低く,脈管侵襲を伴うことが多かった.さらに,クッパーイメージにおけるdefect re-perfusionイメージングでは,近傍のグリソンの描出がより明瞭となり,微小な腫瘍栓を直接描出したり,その内部血流まで描出することができた.②:クッパーイメージにおいて新たに発見した小さな病変は,のう胞や血管腫は特徴的な血流像により容易に鑑別することが可能であったが,特に大きさが5mm以下程度になると,肝細胞癌とその他の病変の鑑別は困難であった.③:TAE後やRFA後の病変も境界が明瞭となり,内部血流の有無を描出できた.しかし,内部に血流を認めても,必ずしも癌細胞が生存しているとは限らなかった.④:支配グリソンの評価が困難であったものも,血管イメージで腫瘍への流入血流を直接描出したり,選択的なグリソン枝のクランプと造影を組み合わせることで,その支配グリソンを同定することができた.
【考察】
肝細胞癌の分化度や脈管侵襲は術後再発の重要な因子であるが,切除標本にて初めて判明することも多い.今回の検討では,病変内部の血管構造のパターンよりそれらを間接的に予測したり,直接描出できることが示唆された.また,術中超音波によって新病変が発見されることはしばしばあり,その中には切除すべき病変が含まれている.今回の検討では,5mm程度の大きさまでなら,血流診断によって鑑別可能と考えられた.また,内科的治療後の病変は,血流の有無と癌細胞の有無が直接対応するものではなく,その評価は今後のさらなる検討を要する.病変の部位によっては,従来の検査では支配グリソンの評価は困難であり,厳密な系統的切除の施行や,多くの残肝温存が必要な場合,支配グリソンの同定はより適切な切除範囲の決定に有用である.
【結論】
肝細胞癌に対する術中造影超音波は,特にリアルタイムに詳細な血流を描出することで新たな情報が得られ,適切な手術に貢献する.