中坊 亜由美, 合田 亜希子, 岡 克己, 増山 理

Ayumi NAKABOH, Akiko GODA, Katsumi OKA, Tohru MASUYAMA

兵庫医科大学　内科学　循環器内科

Department of Internal Medicine, Cardiovascular Division, Hyogo College of Medicine

キーワード :

近年，Strain・Strain Rate法により心筋局所の収縮・拡張動態を詳細に評価することが可能となった．これらの手法によれば，単に心筋局所の機能というだけでなく，同一局所においても異なった方向の機能，すなわち長軸，短軸，円周方向の機能が評価できる．加えて，speckle tracking法を用いることにより一心周期内における回転角度が計測可能である．左心室の捻転運動「ねじれ」は収縮・拡張能に大きく影響していることが明らかにされている．左室は収縮期にねじれ（twist），拡張期にほどける（untwisting）が，ねじれ・ほどけと心筋の組織学的変化の相互関係については未だよく分かっていない．我々は，Speckle tracking法を用いた左室のねじれ・ほどけと心臓MRIにより評価した心筋線維化との関係を検討した．
収縮能の保たれた未治療肥大型心筋症患者（HCM）10例に心エコー図検査と心臓MRI検査を施行した．対象として健常者10例に心エコー図検査を施行． 1）傍胸骨短軸断層像の心基部レベル，心尖部レベルの2断面を記録した.2D speckle tracking法で一心周期における各断面の回転角度を求め，心尖部から心基部の回転角度を差し引いた角度を左室全体のねじれ・ほどけとして算出した．ねじれ（Twist）の評価は，拡張末期から収縮末期に移動した角度として求め，ほどけ（untwisting）の評価は，収縮末期のねじれ角度が1/eになるまでの時間を計測し，Untwisting indexとして算出した．2）遅延造影MRIにて，遅延造影（DE）を呈する心筋の重量を求め，左室全体の重量で除することにより，％DE massを算出し，心筋線維化の広がりの指標とした．
1）TwistはHCMと健常例で同等であったが，Untwisting indexはHCMで有意に低下していた（235±22 vs 128±20 msec, p＜0.01）．
2）％DE massとTwistは負の相関を示し，HCMにおいて左室のねじれの程度は心筋の線維化が強いほど低下することが示唆された．一方，％DE massとUntwisting indexとは相関がみられなかった．
3）Untwisting indexは，左室収縮末期容積（LVESV）と正の相関を認め（r＝0.71, p＜0.05），左室心筋重量係数（LVMI）とも関連を認めた（r＝0.43 p＝0.06）．TwistとLVESV，LVMIとは関連を認めなかった（r＝0.19, r＝0.02）．以上よりねじれは保持されるが，ほどけが障害されることがHCMの病態特性であり，その障害は，心筋の線維化とは関係なく，elastic recoilとactive relaxationの遅延に関連していた．ねじれの異常とほどけの異常は必ずしも一致せず，それぞれの変化は異なった心筋の組織学的変化を反映することが示唆された．
Strain imagingは左室のねじれ・ほどけの評価を可能とし，病態評価の一助となる手法である． 3D speckle trackingも臨床応用されつつあり，今後，三次元でより詳細な検討が可能となるであろう．