田中 秀和¹, 川合 宏哉¹, Gorcsan John²

Hidekazu TANAKA¹, Hiroya KAWAI¹, John GORCSAN²

¹神戸大学大学院　循環器内科学, ²ピッツバーグ大学　循環器内科

¹Division of Cardiology, Kobe University Graduate School of Medicine, ²Cardiovascular Institute, University of Pittsburgh

キーワード :

【背景】
左室心筋は短軸（RadialまたはTransverse），長軸（Longitudinal），円周方向（Circumferential）に収縮していることが知られている．2-D speckle-tracking imaging法は角度依存性を受けずに局所心筋のstrainが計測できるため，左室短軸像からRadialおよびCircumferential strain，心尖部像からTransverseおよびLongitudinal strainの4方向のstrainが計測可能である．また，近年新しく開発された3-D speckle-tracking imaging法は左室全16領域のRadial，Longitudinal，Circumferential strainが同一心拍で同時に計測可能である．心臓再同期療法（CRT）は重症心不全患者に対して有効な治療法として確立されているが，約1/3の症例に心機能の改善が認められないnon-responderが存在する．そのためQRS幅に代わるdyssynchornyの指標として，心エコー図を用いた指標が報告されている．しかしspeckle-tracking imagingを用いた，多方向のstrainによるCRT後のresponderの予測ならびに長期予後に関しては検討されていない．
【目的】
どの方向のstrainを用いたdyssysnchornyの指標が，CRT後のresponderの予測ならびに長期予後の予測に有用であるかをspeckle-tracking imagingを用いて比較検討した．
【方法】
対象はCRTを施行した重症心不全患者106例（左室駆出率24±7 ％，QRS幅158±26 ms）．超音波装置はToshiba社製Aplio もしくはAplio Artidaを用いた．RadialおよびCircumferential dyssynchornyは左室短軸像心室中部レベルで前部中隔と後壁のpeak strainの時間差として算出し，TransverseおよびLongitudinal dyssynchornyは心尖部4 腔，2 腔，長軸断層像の基部および中部レベル（計12領域）から計測されたpeak strainのmaximum opposing wall delayとして算出した．CRT施行平均7±4 ヵ月後に心エコー図検査を行い，左室駆出率が相対的に15％以上改善した症例をresponderと定義した．長期予後の予測はCRT後の死亡，心臓移植，人工補助心臓の植込みをendpointとしてKaplan-Meier 法を用いて比較検討した．
【結果】
Responderを予測する最適の指標はRadial dyssynchorny であり（カットオフ値130ms，感度86％，特異度68％，AUC 0.79，p＜0.001），次いでTransverse dyssynchornyであった（カットオフ値135ms，感度82％，特異度68％，AUC 0.75，p＜0.001）．一方，Circumferential およびLongitudinal dyssynchornyはresponderの予測ができなかった．ROC曲線から求められた最適カットオフ値を用いると，Radial dyssynchorny（≥130ms）とTransverse dyssynchorny（≥135ms）はCRT後の長期予後が予測可能であったが，Circumferential dyssynchorny（≥120ms）およびLongitudinal dyssynchorny（≥150ms）は予測不可であった．また，3-D speckle-trackingのデータが得られた31例の検討でも同様に，Radial dyssynchornyのみがresponderの予測に有用であった（time-to-peak strainの標準偏差: カットオフ値80ms，感度79％，特異度83％，AUC 0.79，p＜0.001，peak strainのmaximum opposing wall delay: カットオフ値200ms，感度84％，特異度75％，AUC 0.77，p＜0.001）．
【結論】
左室短軸像（Radial）および心尖部像（Transverse）の短軸方向のstrainから算出されたdyssynchornyの指標はCRT後のresponderおよび長期予後予測に有用であった．この研究により，短軸方向の心筋機能は円周方向および長軸方向の心筋機能と比較して，左室収縮能およびdyssynchornyに対して鋭敏な指標であると示唆された．さらに，これらの指標は2つの異なった断面から評価されるので，相補的にdyssynchornyの評価が可能であり，臨床的に有用である．