英文誌(2004-)
シンポジウム
シンポジウム4
泌尿器癌の超音波診断ガイドラインを考える 第2部:前立腺
(S145)
前立腺生検:経直腸的アプローチと経会陰的アプローチの比較
Prostate biopsy: transrectal or transperineal approach
納谷 佳男
Yoshio NAYA
京都第一赤十字病院 泌尿器科
Department of Urology, Kyoto First Red Cross Hospital
キーワード :
前立腺生検は,前立腺癌の診断に必須であり,PSAが4以上で画像や直腸診で,前立腺癌が疑われる場合に行われるのが一般的である.通常,超音波ガイド下に施行されるが,経会陰的アプローチと経直腸的アプローチの二つがあり,最近は同時に双方のアプローチで生検を行う施設もある.
経直腸的超音波検査の普及により,1989年にHodgeらが経直腸的アプローチによる系統的6箇所前立腺生検を提唱し,前立腺生検の標準的方法として定着した.左右前立腺傍正中で尖部,中間部,基部からそれぞれ1本ずつ組織を採取するものである.Stameyらは,前立腺全摘標本での癌病巣解析をおこない,系統的6箇所生検では好発領域である辺縁領域外側後面の組織を採取できていないという欠点があることを報告し,その後1997年にEskewらがFive-region systematic biopsyを提唱,Babaianらも11-core biopsyを提唱し,多部位生検の時代に突入した.経直腸的アプローチは無麻酔で可能とされているが,多部位生件の普及に伴い局所麻酔をするほうがよいという報告もある.また,まれではあるが直腸出血や敗血症の報告があり,死亡例も報告されている.前立腺尖部腹側は前立腺癌の好発部位であるがその部分の癌組織を採取が困難なことも欠点の一つである.筆者はMDアンダーソンがんセンター在籍中,初回生検では経直腸的10箇所生件を,再生検では11箇所生検を行っていたが,再生検も陰性で3回目の生検で施行した経会陰的Saturation biopsyでしばしば前立腺尖部腹側から癌を検出した経験を持っている.
一方,経会陰的アプローチでの前立腺生検は,感染のリスクが少ないことが特徴である.欧米に比し日本で普及している方法である.京都府立医科大学のグループを中心に行われており,九州でも3割の施設が経会陰的に行っていることを2006年に野口らが報告している.1997年に斉藤らが経会陰的系統的6箇所生検を提唱し,2001年に小島らが経会陰的系統的12箇所生検を提唱した.また,鴨井らは初回生検に際し,経会陰的8箇所生検の有用性を報告している.筆者は12箇所生検を経会陰的に行っているが,小島らは経会陰的24箇所生検の有用性も報告している.経会陰的アプローチは前立腺基部の組織を採取しづらいといわれているが,筆者は大きな前立腺でなければ熟練者であればそのような心配はないと考えている.局所麻酔や仙骨ブロックが必要で,経直腸的アプローチより手技が複雑であるが,近年の多部位生検では経直腸的アプローチでも麻酔を行う施設も多く,必ずしも経会陰的アプローチの欠点とはいえなくなりつつある.DPC病院では2泊3日の前立腺生検がもっともDPC効果が高いため,入院の上,麻酔をかけて行う場合も多い.
2001年にStewartらがSaturation biopsyを提唱し,前立腺の大きさに応じて20本以上の組織採取を行う施設が出てくるようになった.小線源療法に用いるテンプレートを使用した経会陰的多部位生検もなされるようになった.経直腸的アプローチと経会陰的アプローチを同時に行う施設も出てきており,日本でも川上らや木下らがその有用性を報告している.
筆者は経直腸的生検と経会陰的生検のいずれも経験を持っているが,要は初回生件においては手馴れた方法で確実に行うこと,それぞれの利点と欠点を理解し,必要であれば再生検時は,可能な施設では両者を組み合わせて施行すればよいと考えている.