Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム4
泌尿器癌の超音波診断ガイドラインを考える 第2部:前立腺

(S143)

ドプラ法,造影ドプラ法,エラストグラフィは診断能を向上させるか

Can Doppler imaging, contrast-enhanced Doppler imaging and elastography enhance the diagnostic capability of transrectal ultrasound?

落合 厚

Atsushi OCHIAI

愛生会山科病院 泌尿器科

Urology, Aiseikai Yamashina Hospital

キーワード :

 近年の技術革新により,ドプラ法,造影ドプラ法,エラストグラフィが各領域に臨床応用され,経直腸的超音波においても使用可能となった.これらの新技術によりgray-scale超音波で同定困難であった前立腺癌の局在診断が可能となれば,生検が必要な患者の至適選択,癌領域への標的生検による診断効率の向上,病期診断,治療への応用などが期待できる.癌が増大するためには血管新生が必要である.前立腺や他臓器においてmicrovessel densityの増加が癌の進展や予後と関係することが報告されている.カラー・パワードプラ法により非侵襲的に前立腺内血流信号の増強を検出することで,これまで検出できなかった癌病巣を新たに検出できること,gray-scaleでhypoechoicに描出される領域の質的診断に有用であることが報告されている.しかしながら,ドプラ標的生検は系統的生検に置き換えられるほどの診断精度はなく,系統的生検と組み合わせて用いられるべきであると報告されている.通常のドプラ法では血管内の血流成分が反射源となり血流が描出されるのに対し,造影超音波法では血管内の散乱体の増加により血流がより明瞭となり,微小血管や低速の血流信号の検知が可能となる.造影ドプラ標的生検は系統的生検と比べて約半分の少ないコア数で,同等かまたは有意に多くの癌を検出することが可能であること,より悪性度の高い癌を検出できることが報告されている.癌組織では血管と細胞の密度が増加して硬くなる.組織の硬さを非侵襲的・客観的に評価する新しい画像診断の手法として,エラストグラフィが開発された.エラストグラフィはプローブを押し当てることにより圧迫された組織の変形率,つまり歪み分布の画像化を行うことにより病変を評価する.前立腺癌は正常前立腺組織と比べ硬く,前立腺肥大症は正常前立腺組織と比べ軟らかい.系統的生検にエラストグラフィ標的生検を併用することで癌病巣の見落としを減らすこと,エラストグラフィ標的生検と系統的生検との比較では,少ない生検本数で,より多くの癌を検出できるとの報告がある.一方で,経直腸的プローブを通して,用手的に前立腺を圧迫する場合には,圧迫を一定にすることが困難,圧迫断面がずれること,圧迫できる角度が狭いことなどの手技上の問題が生じていた.従来の用手的圧迫法の課題を克服するため,圧迫専用バルーン装置を用いたバルーン法エラストグラフィが開発され再現性の良い安定した画像得られるようになった.新しい画像診断法の開発によりこれまで同定困難であった前立腺癌病巣を検出することが可能となった.新技術の有用性の確立には,検査手技,診断の標準化のため,さらなる臨床経験の蓄積が必要である.