Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム2
3次元超音波診断の最前線

(S137)

左心耳内血栓形成に関連した左心耳構造の検討

Three-Dimensional Transesophageal Echocardiographic Study for Assessing Morphological Characteristics of Left Atrial Appendage Related to Thrombus Formation

瀬尾 由広, 中島 英樹, 山本 昌良, 渥美 安紀子, 針村 佳江, 町野 智子, 川村  龍, 石津 智子, 青沼 和隆

Yoshihiro SEO, Hideki NAKAJIMA, Masayoshi YAMAMOTO, Akiko ATSUMI, Yoshie HARIMURA, Tomoko MACHINO, Ryou KAWAMURA, Tomoko ISHIZU, Kazutaka AONUMA

筑波大学大学院人間総合科学研究科循環器内科

Cardiovascular Division, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba

キーワード :

【背景】
心房細動,心不全,および僧帽弁弁膜症において左心耳内血栓の評価は重要である.左心耳内血流うっ滞はその主因であり,もやもやエコーの程度は左心耳内血栓形成のリスク評価法として広く知られている.さらにはCongestive heart failure,Hypertension,Age(75歳以上),Diabetes,Strokeをスコア化したCHADS2スコアも心房細動症例における血栓塞栓症のリスク評価に使用されている.
一方,左心耳の構造が左心耳内血栓の形成とどのような関連があるかは明らかにされていない.左心耳は複雑な構造をしており,その詳細な構造の画像化には三次元心エコー図が有用であると考えられる.
【目的】
心房細動症例における左心耳構造を三次元心エコー図で解析し,左心耳内血栓との関連を検討すること.
【方法】
対象は一過性および慢性心房細動を有する連続250例.全例で電気的除細動もしくは肺静脈隔離術前に左心耳内血栓を評価するために経胸壁および経食道心エコーを施行した.超音波診断装置はフィリップス社製iE-33,探触子はS5-2およびS7-2を,オフライン解析ソフトはGI-3DQを使用した.血栓リスク評価としてCHADS2スコアの因子を評価した.二次元心エコー評価項目は,左室形態,左心機能,左房容量,左房内モヤモヤエコー,および左心耳内血流速度である.左心耳内血栓の有無は三次元経食道心エコー法のX-planeモードで評価した.左心耳の三次元画像取得は,洞調律症例ではfull-volumeモードを用いた.連続6心拍で画像を取得し,フレーム数は20 から30 回/秒に設定した.検査時心房細動例では一心拍で画像を取得するzoomモードを使用し,フレーム数は10 回/秒に設定した.左心耳構造の評価項目は,左心耳入口部面積,左心耳の深さ,左心耳容量,および分葉数である.
【結果】
237例(95%)の症例で左心耳構造の検討が可能であった.左心耳内血栓は15例(6%)に認められた.血栓を認めない症例に比較し,血栓を認めた症例は高齢(67±8 vs. 59±11歳,p=0.04)で,慢性心房細動症例(12例80%)が多く,左心機能低下傾向(EF; 54±11 vs. 62±11%,p=0.06)が認められた.また,左心房容量 (137±59 vs. 66±37ml,p<0.001),左心耳容量(12±5.2 vs. 6.2±5.9ml ,p=0.01)とも有意に大きく,左心耳内モヤモヤエコーレベルが高く(グレード4,11例73%),有意な左心耳内血流速度の低下(20±15 vs. 45±19 cm/s,p=0.01)が認められた.さらに,血栓を認めた症例では左心耳分葉数が多く,13例で分葉数が3個,2例で4個の分葉が認められた.一方,血栓を認めない症例の半数は分葉数が2個であり,25%で分葉が認められず,25%で分葉が3個であった.
血栓の存在と関連する因子に関する多変量解析では,慢性心房細動,モヤモヤエコーレベルに加えて,分葉数が独立規定因子であった(Odd ratio 18.32,p=0.01).
【総括】
これまで報告されてきたモヤモヤエコーやCHADS2スコアに加えて,左心耳の分葉数が左心耳内血栓のリスクである可能性が示唆された.この結果は,多くの分葉を有する複雑な構造の左心耳が,血流うっ滞生じた際に易血栓形成の解剖学的な温床となる可能性を示唆する.左心耳形態の多様性はすでに多くの検討にて報告されているが,生体での検討は三次元心エコー図の発展によって可能となった.ほとんどの症例において解析可能な画像を得ることができ,特に心房細動例においても一心拍で画像を取得できたことが本研究の大きなアドバンテージとなった.現在の心エコー画像を用いても血栓の確定診断が困難な症例が少なくない.今後,三次元心エコー法による左心耳形態に着目した血栓リスクの評価が,血栓の診断,血栓塞栓症予防の一助となる可能性がある.