宮越 敬, 田中 守, 金 善惠, 梅津 桃, 門平 育子, 峰岸 一宏, 吉村 泰典

Kei MIYAKOSHI, Mamoru TANAKA, Seon-Hye KIM, Momo UMEZU, Ikuko KADOHIRA, Kazuhiro MINEGISHI, Yasunori YOSHIMURA

慶應義塾大学　産婦人科

Department of Obstetrics & Gynecology, Keio University, School of Medicine

キーワード :

【背景】
従来，胎児の心機能評価にはM-modeならびにドプラ法が用いられてきた．しかしながら，ドプラ法は超音波ビーム角度依存性であるため解析できる領域が制限されている．近年開発されたspeckle tracking法では，超音波ビーム角度による制限を受けずに心室壁運動を観察することが可能である．成人ではspeckle tracking法により局所心筋運動が検討されているが，同法を用いた胎児心室壁運動に関する報告例は少ない．また，speckle tracking法の解析ソフトの一つであるsyngo Velocity Vector Imaging （VVI; Siemens Medical Solutions）では，B-mode上の各サンプリングポイントにおける心室壁運動の定量的検討に加え心室容積の評価も可能である．
【目的】
本研究の目的はsyngo VVIを用いて胎児心室壁運動を観察し，cardiac performanceに関する参照値を作成することである．
【方法】
対象は超音波検査にて形態異常を認めない正常発育胎児70例（妊娠18〜38週）である．超音波検査にはACUSON Antares（Mochida Siemens Medical Systems）を用い，B-mode（frame rate：60/sec）にて胎児心臓四腔断面像を記録し，心室壁運動をsyngo VVIを用いてoff lineで解析した．具体的には，各心室の心内膜側をトレースし，VVI解析に基づいた心室拡張および収縮末期容積（EDV，ESV； disc summation法），駆出率 （EF），心拍出量（CO）を算出した．また，局所心筋運動の指標として左室および右室自由壁（LVW，RVW），心室中隔（IVS）の房室弁付着部直下における長軸方向（longitudinal）の歪み率（strain rate: SR）を計測した ．なお，本研究は当施設倫理委員会の承認を得て施行された．
【結果】
全例において，心尖部ではradial方向の，中隔および自由壁部ではlongitudinal方向の壁運動が観察された．また，左室に比べ右室ではlongitudinal方向の壁運動が有意であった．両室のEDV，ESVおよびCOは妊娠週数と有意に正の相関を示したが，EFは妊娠中・後期を通して一定であった（左室：61.3±8.3％；右室：53.3±10.2％）．また，LVW，RVWおよびIVS のlongitudinal SRは妊娠中期以降有意な変化を示さなかった（収縮期：LVW，-2.47±1.38，RVW，-3.72±2.15，IVS，-2.11±0.80；拡張早期：LVW，1.30±1.15，RVW，2.14±1.37，IVS，1.08±0.70；拡張後期：LVW，2.19±1.52，RVW，3.44±3.92，IVS，1.94±1.03）．なお，LVW に比べRVWのlongitudinal SRの絶対値が高値を示した．
【まとめ】
今回我々は，speckle tracking法により妊娠中期以降の胎児心室壁運動を観察し，VVI解析に基づいたEDV，ESV，CO，EFおよびlongitudinal SRの参照値を作成した．本法により胎児のcardiac performanceに関する知見を得ることは，新たな胎児心機能指標の作成に繋がるものと考えられる．本シンポジウムでは，胎児異常症例（発育遅延，胎児胸水，不整脈など）における各指標の特徴も含めて報告する予定である．