依岡 寛和, 笠松 敦, 椹木 晋, 神崎 秀陽

Hirokazu YORIOKA, Atusi KASAMATU, Susumu SAWARAGI, Hideharu KANZAKI

関西医科大学附属枚方病院　女性診療科

Obstetrics and Gynecology, Kansai Medical University Hirakata Hospital

キーワード :

【緒言】
超音波断層検査はその非侵襲的な手技から妊娠管理を行う上で重要な検査であり，超音波ドップラー検査においてはカラードップラー，パワードップラー，パルスドップラーに大別される．カラードップラーやパワードップラー法においては血流がカラー表示されることにより血管や血流の描出によって我々産婦人科医は診断に利用している．一方超音波パルスドップラー法では特定の血管の血流波形から血流計測をおこない，定量的な評価が可能である．対象血管は胎児では臍帯動脈，中大脳動脈，下大静脈，大動脈，臍帯静脈などである．ことに臍帯動脈血流は繰り返し測定されてきた血管であるが現在あらためてその測定意義，位置付けについて再確認する．
　超音波断層検査ではビームと血管の角度に依存する変動要因を消去するために現在汎用されている指標はRI値（Resistance Index），およびPI値（Pulsatility Index）である．これは末梢血管抵抗の評価であり，RI値では平均血流速度を加味したインデックスであるが臨床的意義に差はないとされている．臍帯動脈のRI値は胎児に近い部分で計測したほうが値が高く出るが，臨床的に問題になるような違いは無い．RI値の上昇は計測している血管から末梢に血液が行きにくい状態であり，反対にRI値の低下は末梢に血液が流れやすい状態を意味する．従ってRI値高値を示す場合には胎盤梗塞などにより胎児から胎盤への血流が障害されているような場合が考えられる．臍帯動脈は最初に胎児の血流評価をおこなわれた血管であり，胎児のwell-beingを評価する上で有用である．臍帯動脈血流はその血管抵抗が上昇すると，RI値は上昇し，一方で中大脳動脈のRI値は低下する．これは胎児低酸素症に対して脳などの重要臓器へ優先的に血流を送ろうとする血流再分配機構が働く．
　臍帯動脈の拡張期途絶（absent end diastolic velocity ; AEDV）や拡張期逆流（reverse end diastolic velocity ; REDV）が認められれば子宮内胎児死亡や新生児死亡との関連が高いと考えられ，このような場合には妊娠週数が受け入れ先のレベルによってはterminationの適応を考慮したい所見である．AEDVやREDVは胎児アシドーシスや胎児機能不全，早産，低アプガースコアのリスクと関連すると考えられ，他にもIVH，BPD，壊死性腸炎などとの関連も検討されている．
　IUGRにおいては臍帯血流測定の有用性に関する報告は多いが，必ずしも低酸素症やアシドーシスを反映しているとは限らずCTG所見と併せて考慮すべきであろう．双胎間輸血症候群においてはその診断およびレーザー治療後の評価についての有用性についても論じられている．
【結論】
今後のデータの蓄積や技術の進歩によって胎児のwell being評価において臍帯動脈を含めたパルスドップラー検査の重要性が高まり，周産期予後改善に寄与することを願う．