Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2010 - Vol.37

Vol.37 No.Supplement

シンポジウム
シンポジウム1
超音波を用いた胎児循環計測の現状と未来

(S130)

超音波ドプラ血流計測による胎児循環評価の現状と未来

Evaluation of fetal circulation using Doppler ultrasound: current practice and future directions

越智 博

Hiroshi OCHI

愛媛県立中央病院 産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Ehime Prefectural Central Hospital

キーワード :

 超音波ドプラ法の実用化以前には,胎児に関する知識は動物の胎仔のchronic preparationによらねばならなかった.また,ヒト胎児に関する知識はhysterectomyによる妊娠中絶時などに非常に限られていた.動物胎仔より得たデータをヒトにあてはめる場合,種の違いや麻酔・外科的手技の影響などいくつもの問題点がある.これに対して非侵襲的に胎児循環を評価することができるようにBモードに連結したpulsed Doppler法をFitzgerald & Drummが開発し,それ以来,超音波ドプラ法による胎児循環および子宮循環の評価が盛んに行われるようになった.
 この当時の画期的な非侵襲的な血流計測法の実用化によって正常妊娠における胎児循環,子宮循環の生理的な変化や子宮内胎児発育遅延,胎児水腫,妊娠高血圧症候群などにおける病的な変化について各種の研究が行われ,臨床に応用された.このように超音波ドプラ法の開発によって,ヒト胎児循環および子宮循環を安全に非侵襲的に検査することが可能となり,これによって胎児循環や子宮循環に関する評価法が飛躍的に進歩した.我々も超音波ドプラ法による血流計測を胎児循環や子宮循環について適用し,臨床研究および動物実験による基礎的研究を行ってきた.これまでに胎児循環については,胎児下行大動脈,臍帯動脈,中大脳動脈,穿通枝などの動脈について各種血流指数について検討した.また,胎児静脈系血流については,下大静脈および臍帯静脈を中心とした検討を行った.さらに妊娠高血圧症候群については,妊娠高血圧症候群にみられる子宮動脈血流速度波形の変化を,妊娠羊を用いた子宮動脈塞栓実験を行って初めて実験的に証明することに成功し,子宮動脈pulsatility indexの高値やdiastolic notchの出現の意義について動物実験によって明らかにした.
 我々はヒト胎児循環の検討によって超音波ドプラ法による胎児動脈系血流の循環指数は血管抵抗の上昇などによる後負荷の上昇を鋭敏にとらえること,心不全の兆候や胎児貧血の兆候をとらえる指数としても有用であることを明らかとした.一方,静脈系指数は前負荷の増大や心不全の兆候をとらえる指数として有用であることを明らかとした.これまでにこの分野では無数の研究が行われ,現在では日常診療にかかせない指数となったものも多い.今回,まず現在までに行われてきた各種の研究によって明らかとなった成果とその問題点について検討したいと考える.さらに,超音波ドプラ法が実用化された当時のように今後画期的な成果が期待される血流評価法の可能性についても考察を加えたい.