Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
産婦人科:胎児

(S507)

胎児中大脳動脈収縮期最高速度が高値を示した胎児感染症の1例

A case of fetal infection with increased peak systolic velocity of middle cerebral artery

小口 秀紀1, 長谷川 育子1, 坂野 伸弥1, 藤巻 英彦2, 邨瀬 智彦1, 矢口 のどか1, 田中 和東1, 原田 統子1, 岸上 靖幸1

Hideori OGUCHI1, Ikuko HASEGAWA1, Shinya BANNO1, Hidehiko FUJIMAKI2, Tomohiko MURASE1, Nodoka YAGUCHI1, Kazuharu TANAKA1, Touko HARATA1, Yasuyuki KISHIGAMI1

1トヨタ記念病院周産期母子医療センター産科, 2トヨタ記念病院周産期母子医療センター新生児科

1Department of Obstetrics,Perinatal Medical Center, Toyota Memorial Hospital, 2neonatology,Perinatal Medical Center, Toyota Memorial Hospital

キーワード :

【緒言】
胎児貧血の評価は羊水穿刺による羊水分析や臍帯穿刺による胎児採血が行われてきたが,いずれも侵襲的である1).近年,胎児貧血の間接的な評価の指標として,超音波ドプラ法を用いた胎児中大脳動脈(middle cerebral artery; MCA)血流の収縮期最高速度(peak systolic velocity; PSV)の有用性がMariらによって報告された1).MCA-PSVの妊娠週数における中央値の1.5MoM(multiples of the median)以上の増加が認められる場合,胎児輸血の適応となる重症貧血が存在すると考えられている2).今回我々は切迫早産の妊婦に対し,MCA-PSVを測定しながら胎児管理を行ったところ,MCA-PSV値が中央値の1.5MoMをこえ,分娩後に胎児輸血が必要であった胎児感染症の1例を経験したので報告する.
【症例】
32歳,1経妊1経産.近医で妊婦健診を受けていたが,特に異常は指摘されていなかった.25週5日に少量の性器出血を認め,近医を受診.切迫早産の診断でリトドリン点滴による入院治療をおこなっていたが,26週2日に,突然多量の性器出血が出現し,当院へ緊急母体搬送となった.来院時体温は37.4℃で,子宮口は1cm開大し,子宮頸管長は26.8mmであった.切迫早産の診断で,リトドリン点滴を続行した.来院時の血液検査ではWBC: 12,700/μL,CRP: 0.8 mg/dLと軽度の炎症所見を認めたため,抗生剤を併用した.子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼは0.23μg/mL,腟分泌物培養では嫌気性球菌が認められ,顆粒球数250個/HPFであった.妊娠28週4日に体温は37.0℃であったが,血液検査ではWBC 9,500/μL,CRP 3.7mg/dLとCRPの上昇を認めた.MCA-PSVは28週3日に47.9cm/secと正常であったが,28週5日には81.6cm/secと中央値の1.5MoMをこえたため,胎児貧血の可能性が高いと判断し,娩出の方針とし,同日経腟分娩となった.出生児は女児,1086g,Apgar score 2/3で,臍帯動脈血pHは7.462であった.新生児採血ではHb 10.6g/dl,Ht 31.9%と貧血を認め,赤血球濃厚液を20ml/kg輸血した.また,WBC 28,800/μL,CRP 4.4 mg/dL,IgM 91 mg/dLと子宮内感染を強く示唆したため,抗生剤,抗菌剤,免疫グロブリン製剤を使用した.輸血施行後は貧血の進行はみられなかったが,慢性肺疾患 型を認め,日齢95(受胎後42週2日)の現在,GCUにて在宅酸素療法へ向けて準備中である.
【結論】
今回切迫早産の胎児のMCA-PSVが高値を示し,分娩後新生児に貧血を認め,輸血を必要とした症例を経験した.超音波ドプラ法によるMCA-PSVの測定は簡便かつ低侵襲で繰り返し施行できるといった利点があり,胎児貧血を評価する上で有用であった.切迫早産のなかには本症例のように子宮内感染から胎児貧血をきたす場合もあり,MCA-PSVの測定は切迫早産症例についても有用と考えられた.

文献
 1)Mari G.:Middle cerebral artery peak systolic velocity for the diagnosis of fetal anemia, the untold story. Ultrasound Obstet Gynecol 25:323-330, 2005
 2)Cosmi E, Mari G, Delle CL. et al.:Noninvasive diagnosis by doppler ultrasonography of fetal anemia resulting from parvovirus infection. Am J Obstet Gynecol 187:1290-1293, 2005