Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
産婦人科:胎児

(S506)

胎児超音波断層法にて診断した胎児卵巣嚢腫茎捻転の1例

A case of torsion of fetal ovarian cyst diagnosed with ultrasonography

長谷川 育子1, 上島 千春2, 木下 愛2, 堀 芳秋2, 加藤 じゅん2, 加藤 三典2, 土田 達2, 岸上 靖幸1, 小口 秀紀1

Ikuko HASEGAWA1, Chiharu UESHIMA2, Ai KINOSHITA2, Yoshiaki HORI2, Jyun KATO2, Mistunori KATO2, Toru TSUCHIDA2, Yasuyuki KISHIGAMI1, Hidenori OGUCHI1

1トヨタ記念病院 周産期母子医療センター産科, 2福井県立病院周産期母子医療センター産科

1Department of Obstetrics,Perinatal Medical Center,Toyota Memorial Hospital, 2Department of Obstetrics,Perinatal Medical Center,Fukui Prefectural Hospital

キーワード :

【緒言】
卵巣嚢腫は新生児腹部腫瘤の中で比較的よく遭遇する疾患であり,近年,超音波断層法による出生前診断の進歩により胎児期に卵巣嚢腫が診断される機会が増えてきた.胎児卵巣嚢腫の原因の多くは胎児ゴナドトロピンや母体エストロゲン,胎盤由来hCGなどによる胎児卵巣の刺激と考えられており,出生後これらの作用が減少すると半数以上が自然消退する.このため,経過観察されることが多いが,成人と同様に茎捻転を起こすことも知られている1).一般的に卵巣嚢腫は下腹部にcystic pattern(無エコー領域)として描出され,嚢腫壁は平滑で薄い.この無エコー領域の嚢腫に,高エコー領域や液面形成,不均一なエコー像が出現する場合,茎捻転が疑われる2).出生前に大きな卵巣嚢腫が茎捻転を起こす確率は約40%と報告されている2).茎捻転を起こした場合,壊死から急性腹症を発症した症例,破裂による腹水が呼吸窮迫を呈した症例,嚢腫の癒着から空腸捻転を生じた症例などが報告されている3).また,茎捻転により嚢胞内に出血を来し胎児貧血となった症例も報告されており,茎捻転と診断した際には手術を考慮した厳重な観察が必要である.今回われわれは超音波断層法で胎児期に卵巣嚢腫を認め,経過観察中に茎捻転と診断した症例を経験したので報告する.
【症例】
26歳,0経妊0経産.自然妊娠にて妊娠成立.妊娠初期より他院にて妊婦健診を受けていた.妊娠32週の健診時に胎児の腹部に長径29 mmの単房性嚢胞を認め,2週間で長径54 mmに増大したため,当院紹介初診となった.腫瘍の位置から右卵巣嚢腫が疑われたが,胎児の状態に問題なかったため,外来経過観察とした.35週の健診時に前回健診時に認められなかった高エコー領域や不均一なエコー像と嚢胞壁の肥厚を認め,右卵巣嚢腫茎捻転と診断した.茎捻転に伴う嚢腫内出血・壊死をきたしている可能性があり,それに伴う全身状態の変化を早期に把握することは困難と判断し,新生児科,小児外科と協議のうえ妊娠35週2日に帝王切開にて分娩となった.出生児は女児で,2778g,Apgar score 9/9であった.出生後の超音波断層法では嚢胞壁の肥厚,内部に不均一なエコー像を認め,腹部CTではほぼ均一な嚢胞性病変であり,dermoid cyst,卵巣嚢腫内出血が疑われたが,超音波断層法での経時的変化より卵巣嚢腫の茎捻転に伴う嚢腫内出血と診断した.腹腔内出血の所見や嚢腫による圧迫に伴う消化管通過障害・呼吸障害がないため,全身状態の安定した日齢10に開腹術を施行した.手術診断は右卵巣嚢腫茎捻転で,右付属器切除術を施行した.捻転した卵巣は暗赤色で内腔には暗赤色の陳旧性出血を認め,嚢胞壁の大部分が出血・壊死に陥っていた.捻転した卵巣と周囲組織に癒着は認めなかった.
【結論】
今回超音波断層法での経過観察が胎児卵巣嚢腫の茎捻転の診断に有用であった症例を経験した.胎児が卵巣腫瘍茎捻転を発症した場合,成人と異なり全身状態の把握が困難である.従って,茎捻転後の合併症を含めた胎児の全身状態管理を優先する場合,妊娠週数によっては,早期娩出による分娩後管理も選択肢のひとつであると考える.

【参考文献】
 1)村越 毅:婦人科領域—胎児診断された卵巣嚢腫の治療方針.小児外科37:1487-1491, 2005
 2)Diana WB, et al:卵巣嚢腫.ニューイングランド周産期マニュアル,南山堂,605-611, 2002
 3)小池能宣,他:周産期に発症し鏡視下手術を行った卵巣嚢腫茎捻転の1例.臨床小児医学 52:113-117, 2004