Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
産婦人科:産婦人科

(S505)

古典的帝王切開創部の癒着胎盤に対し楔状切除術を施行して子宮温存した一症例

A case report of placenta increta treated by uterine wedge resection

徳中 真由美, 長谷川 潤一, 三村 貴志, 松岡 隆, 市塚 清健, 大槻 克文, 岡井 崇

Mayumi TOKUNAKA, Junichi HASEGAWA, Takashi MIMURA, Ryu MATSUOKA, Kiyotake ITIDUKA, Katsuhumi OHTSUKI, Takashi OKAI

昭和大学産婦人科

Obstetrics and Gynecology,Showa University

キーワード :

【症例】
31歳
【既往歴】
28歳 子宮筋腫を指摘されるが経過観察.
【妊娠歴】
1回経妊1回経産.妊娠23週5日で絨毛膜下血腫による出血のため入院となり,妊娠25週で前期破水し,妊娠26週2日に絨毛膜羊膜炎・臍帯下垂の診断で緊急帝王切開が施行された.その際,子宮下部伸展不良で,子宮下部前壁に約7cm大の子宮筋腫があったため,術式は古典的体部縦切開であった.
【現病歴】
妊娠初期より,当院外来で厳重に妊婦健診を行ったが,切迫早産徴候は見られなかった.超音波検査で前壁の前回帝王切開創部に胎盤付着を認めていた.既往帝切のため選択的帝王切開術施行目的で入院した.
【入院時現症】
身長168cm,体重63kg.血圧108/64mmHg.子宮底32cm,腹囲93cm.腹部は平坦,軟,下腹部正中に切開の瘢痕を認めるが,圧痛はなかった.
【超音波検査】
子宮前壁体部中央に7cm径の子宮筋腫核を認めた.胎児は頭位,推定体重は週数相当,羊水量も正常であった.胎盤は子宮前壁に描出され,子宮筋腫核上部より子宮底側にかけて前回帝王切開部に一致した場所に付着していた.また,子宮底付近では,脱落膜に相当すると考えられているlow echoicな線状エコー(clear zone)が一部途絶していた.また,同部の子宮筋層は非薄化しており,胎盤から子宮筋層にかけて,low echoicな小さい嚢胞状エコーが集蔟していた.カラードプラでは同部に血流を認めなかった.これらの所見より,前回の帝王切開部位における癒着胎盤の可能性が示唆されたため,術前に本人と家族に術中の多量出血や,子宮全摘の可能性について説明した.
【術中所見】
妊娠37週3日に選択的帝王切開術を施行した.子宮下部横切開で3109g,アプガースコア9/10点(1/5分後)の児を娩出した.用手剥離に際し,子宮底部の胎盤が一部癒着していることが分かった.同部位の子宮筋層が非薄化していたため,暗赤色に胎盤が透見できた.前回帝王切開創周囲は瘢痕化しており血流は少ない印象で,その時点で出血はコントロールできており,本人の強い子宮温存の希望もあったため,胎盤癒着部の子宮筋層を楔状に切除する方針とした.切除部の筋層は二層縫合した. 術中出血は2740mlであり,術後は輸血の必要もなく順調に経過し,術後7日目に退院した.一ヶ月健診でも特に異常を認めなかった.
【病理所見】
子宮筋層に楔状に陥入するように胎盤組織が認められ,漿膜から4mm付近までchorionic villi が存在しており,placenta incretaの所見であった.
【考察】
癒着胎盤合併の前置胎盤におけるに関する論文は多数あるが,非前置胎盤に合併する癒着胎盤の取り扱いに関する報告は少ない.今回,我々は常位に付着した胎盤が古典的帝王切開瘢痕部に癒着していることを術前に診断し,子宮筋層の楔状切除術を施行することで子宮を温存できた症例を経験した.癒着胎盤の手術法の一つとして,出血のコントロールが良好な症例においては,本症例のような子宮の部分切除も考慮されてよいと考えられる.