Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
産婦人科:産婦人科

(S504)

胎児の右心拡大を伴った前置血管の1例

Prenatal findings in case of vasa plevia with fetal cardiomegaly

阿部 修平

Shuhei ABE

長崎大学医学部産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology,Nagasaki University School of Medicine

キーワード :

緒言)
前置血管とは,胎児血管が胎盤や臍帯に支持されず,胎児先進部以下の胎児膜を横切って走行する極めて稀な疾患である.血管が内子宮口周辺を通っている場合は,分娩時の胎胞形成や破水時に血管が破れ出血することがあるが,胎児の総血液量は少ないため,少量の出血でも重度の胎児貧血をきたし,胎児機能不全または子宮内胎児死亡に至ることもある.分娩前に診断できなければ周産期死亡率は70−90%,破水例での周産期死亡率は約75%との報告もあり,慎重な管理が必要である.今回,前置血管の管理中に胎児の右心拡大を認め,その管理に超音波検査が有用であった例を報告する.
症例)
症例は31歳の1回経妊1回経産婦である.妊娠歴・家族歴・既往歴に特記すべき事項はない.妊娠初期より前医で妊婦健診を受診していたが,それまで特に異常を指摘されたことはなかった.妊娠20週の超音波検査で,前置胎盤を指摘された.妊娠25週3日に当科を紹介されたが,超音波検査では前置胎盤は認めず低置胎盤であったが,前置血管を認めたため,同日より管理目的で当科へ入院した.少量の性器出血と子宮収縮を認めたため,子宮収縮抑制剤の持続点滴を施行した.出血の原因は絨毛膜下血腫と思われたが,母児いずれかからの出血かを明らかにするためにアプト試験を施行し,出血が母体血であることを確認した.胎児の超音波検査では,中大脳動脈の血流速度は正常範囲であり,その他胎児貧血を疑わせる所見は認められなかった.しかし,妊娠30週頃より胎児の右心拡大および,三尖弁の逆流所見が認められた.超音波ドプラ法による血流計測では心拡大,三尖弁逆流以外の胎児心不全徴候は見られず,その後も右心拡大の増悪を認めなかった.妊娠36週4日に選択的帝王切開術を施行し児を娩出した.子宮頸部横切開で子宮筋層を切開した所,卵膜の表面を走行する前置血管を認めた.児は2,750gの女児で,Apgar scoreは9/9(1分後/5分後)であった.児は貧血を認めず,出生時には心胸郭比53%程度の軽度心拡大と三尖弁逆流を認めたが,明らかな心奇形は認めず,心機能も正常であった.その後,心拡大は生後3日目に消失し,三尖弁逆流も軽度になり,生後9日目に母児ともに退院した.一ヶ月検診時の児の超音波検査で三尖弁逆流の改善を認めた.その後に経験した数例を追加して報告する.