Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
消化器:消化管

(S489)

体外式超音波検査が診断に有用であった出血をともなう大網リンパ管腫の一例

A case of abdominal lymphangioma with the intracystic hemorrhage that ultrasonography was useful for the diagnosis.

井上 敬介1, 青松 友槻1, 余田 篤1, 玉井 浩1, 藤田 能久2, 河合 英2, 平松 昌子2, 芥川 寛3, 江頭 由太郎3

Keisuke INOUE1, Tomoki AOMATSU1, Atsushi YODEN1, Hiroshi TAMAI1, Yoshihisa HUJITA2, Masaru KAWAI2, Masako HIRAMATSU2, Hiroshi AKUTAGAWA3, Yuutarou EGASHIRA3

1大阪医科大学小児科, 2大阪医科大学一般・消化器外科, 3大阪医科大学病理学教室

1Pediatrics,Osaka Medical College, 2General and Gastroenterological Surgery,Osaka Medical College, 3Pathology,Osaka Medical College

キーワード :

リンパ管腫は,胎生期の発生過程でリンパ組織にリンパ液の貯留が起こることで発生し12,000出生に一例にみられる.また,発生部位の95%が頚部・腋窩であり,腹腔内は0.25%と少ない.症状は一般的な消化器症状が多く,胃腸炎として治療されている場合もあるといわれている.小児科領域では後腹膜腫瘍,卵巣腫瘍との鑑別が重要である.今回,突然の嘔吐,腹痛にて症状が出現し,一旦症状が消失し,その後それ以外の症状・所見を認めず,腹部超音波検査で嚢胞内出血を伴う大網リンパ管腫と診断された一例を経験したので報告する.
【症例】
7歳,女児.
【既往歴】
特記事項なし.
【家族歴】
特記事項なし.
【現病歴】
腹痛発作などもなく生来健康であった.平成X年10月18日より嘔吐,腹痛が出現し,翌19日に近医を受診した.発熱なく,身体所見,血液所見で異常を認めなかった.浣腸を実施したが排便認めず,嘔吐が持続したため,紹介入院となった.
【身体所見】
咽頭に異常所見なく,心肺も正常,腹部は平坦,軟で,圧痛なく,腫瘤触知せず,蠕動音良好.
【検査所見】
(入院時採血)RBC 3.76×106/μl,Hb 10.0g/dl,WBC 9,040/μl (Neut 83.9%, Lym 14.4%), Plt 496×103/μl, ALT 16 IU/L, AST 13 IU/L, AMY 60U/L, CRP 0.07mg/dl, Na 140mEq/L, K 4.0mEq/L, Cl 106mEq/L,Glu 90mg/dl.入院時腹部臥位正面レントゲン写真は腹部全体で消化管ガスが乏しく,明らかな腫瘤影を認めず.腹部単純CT(入院第3病日)では内部に出血と思われる高吸収域を伴う,136×60×150mmの単胞性嚢胞を認める.肝・脾の表面,ダグラス窩に腹水を認める.
【入院後の経過】
夜間に緊急入院後に嘔気・腹痛は速やかに消失し,第2病日朝には食欲は回復し活気も認めた.入院当初は感染性胃腸炎が疑われたが,腹部レントゲン写真での消化管ガスが減少していることから,同日腹部超音波検査を実施したところ,腹腔内の大部分を占める巨大多嚢胞性病変を認めた.卵巣を含む他の充実臓器とは関連が認められず,内部エコー輝度は不均一,デブリ様で隔壁を認め,内容液の対流が観察された.また,ドプラ信号が拍動性に認められる部分があった.小児期で他の臓器との関連性を認めないこと,内部に充実成分,石灰化成分を認めず,消化管にみられる層構造を認めない壁構造であること,多胞性嚢胞であることなどよりリンパ管腫が最も疑われた.全身状態良好のため,同日は経過観察とし,第3病日に採血を実施したところ,朝Hb 7.5g/dl, 夕Hb 6.7g/dlと減少した.嚢胞内出血の持続による貧血と判断し,第4病日に嚢胞摘出術を実施した.術後の病理組織診断で大網リンパ管腫と確定診断された.術後経過は良好で第7病日に退院となった.
【考察】
嚢胞性リンパ管腫は小児でも時々みられるが,ほとんどが頭頚部の表在発生が多い.腹腔内リンパ管腫の発生頻度は低く,さらに腹腔内リンパ管腫内の大量出血はまれである.腹腔内ガスの減少・消失を認めた場合は,一般的な消化器症状であったとしても,腹部超音波検査を実施すべきである.また,超音波検査はCTと比較し解像度が高く,リアルタイムでの観察が可能である.本症例での診断でも術前に行った腹部CTに比べ,嚢胞内部の隔壁の描出,壁構造の描出,ドプラ信号描出が可能で,嚢胞の存在診断のみでなく,質的診断も可能であり診断に有用であった.