Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
消化器:消化管

(S487)

腸チフスの一例

A Case of Typhoid

高田 珠子1, 3, 畠 二郎1, 中武 恵子1, 岩井 美喜1, 竹之内 陽子1, 谷口 真由美1, 山下 都1, 小島 健次1, 眞部 紀明1, 春間 賢2

Tamako TAKATA1, 3, Jiro HATA1, Keiko NAKATAKE1, Miki IWAI1, Yoko TAKENOUTI1, Mayumi TANIGUTI1, Miyako YAMASHITA1, Kenji KOJIMA1, Noriaki MANABE1, Ken HARUMA2

1川崎医科大学附属病院内視鏡・超音波センター, 2川崎医科大学附属病院内科学食道・胃腸科, 3三菱三原病院内科

1Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 2Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School, 3Department of Internal Medicine,Mitsubishi Mihara Hospital

キーワード :

【はじめに】
チフス菌は人のみに感染し,患者または保菌者の糞便によって汚染された水や食物を経口摂取することにより感染する.近年我が国では衛生状態の改善に伴って年間100人程度の発症と減少しているがそのうち約70%は海外由来であり,アジア,インド等から帰国後の不明熱においては念頭に置くべき疾患である.体外式超音波検査が診断の契機となった腸チフスの一例を経験したので報告する.
【症例】
10歳代,インドネシア人,男性.来日4日目より38〜39℃発熱,その後1〜2回/日の下痢,下腹部痛が出現,持続するため10日目に当院受診,入院となった.血液検査では軽度白血球減少,血小板減少,肝機能異常,炎症反応高値を認めた.入院時腹部超音波検査では回腸末端に第2層主体の結節状のlow echoicな壁肥厚,回盲部リンパ節腫大,肝脾腫を認め,エルシニア腸炎,腸チフスなど感染性腸炎が疑われた.レボフロキサシン300mg/日にて治療を開始するも解熱せず,入院時血液培養よりグラム陰性桿菌が検出されたため塩酸ミノサイクリン200mg/日,硫酸ゲンタマイシン120mg/日に変更,翌日には解熱し,入院8日目に施行した超音波検査では上記所見は改善していた.血液培養の結果Salmonella typhi が検出され腸チフスと診断した.便培養ではチフス菌は検出されず,腸管出血や穿孔などの合併症も認めず,以後外来フォローとし退院となった.
【考察】
チフス菌は経口摂取されると回盲部周辺腸管のパイエル板にとりこまれ増殖,その後腸間膜リンパ節から血中へ移行し,肝臓や脾臓に捕捉され菌血症を起こすと言われている.本症例でも同病態を反映して,回腸末端の第2層主体のlow echoicな 結節状の肥厚はパイエル板やリンパ濾胞に相当し,また回盲部周囲リンパ節腫大や肝脾腫を認めたものと考えられた.鑑別疾患としては回腸末端に存在するパイエル板やリンパ濾胞とその周囲リンパ節に病変の主座のあるエルシニア腸炎,結核,クローン病,悪性リンパ腫などが挙げられる.中でもエルシニア腸炎との鑑別は必ずしも容易ではないが,海外渡航歴,回腸末端の第2層主体の壁肥厚や回盲部リンパ節腫大の他,肝脾腫を伴うことが腸チフスに特徴的と思われた.海外より帰国後発熱のある患者に上記超音波所見を認めた場合には,腸チフスも念頭におく必要があると考えられた.