佐藤 彬¹, 石田 秀明¹, 小松田 智也¹, 渡部 多佳子¹, 八木澤 仁¹, 石井 透¹, 小棚 木均², 宮内 孝治³, 大山 葉子⁴, 長沼 裕子⁵

Akira SATOU¹, Hideaki ISHIDA¹, Tomoya KOMATSUDA¹, Takako WATANABE¹, Hitoshi YAGISAWA¹, Toru ISHII¹, Hitoshi KOTANAGI², Takaharu MIYAUCHI³, Youko OHYAMA⁴, Hiroko NAGANUMA⁵

¹秋田赤十字病院消化器科, ²秋田赤十字病院外科, ³秋田赤十字病院放射線科, ⁴秋田組合病院生理検査科, ⁵市立横手病院内科

¹Gastroenterology, Akita Red Cross Hospital, ²Surgery, Akita Red Cross Hospital, ³Radiology, Akita Red Cross Hospital, ⁴Clinical Laboratory, Akita Kumiai Hospital, ⁵Internal Medicine, Yokote Municipal Hospital

キーワード :

【はじめに】
画像診断の普及により，門脈腫瘍栓を伴う胃癌例の報告も増加してきたが，やはり比較的まれな状態ではある．今回，我々は，そのような9自験例を，超音波所見を中心に検討し若干の知見を得たので報告する．
【超音波診断装置】
東芝社製-AplioXV, XG（中心周波数：3−4MHz），他．
【対象と方法】
過去10年間に，当院及びその関連施設で経験した，胃癌に門脈腫瘍栓を伴った9例（男性8:女性1，年齢:46-73歳（平均:62.歳），6例が60歳代）を対象に，a）胃癌の占拠部位及び組織型，b）門脈腫瘍栓の広がり，c）これらa）とb）の関連，d）（門脈系の）側副血行路の状態，e）遠隔転移，について検討した．なお，胃癌の診断
は全例内視鏡下生検で，門脈腫瘍栓の診断は，一般的に門脈腫瘍栓の特徴とされている，a）Bモード上門脈内に見られる軟部塊が門脈を限局的に拡張していること，b）ドプラ＋/-造影超音波で，その軟部塊内に血流の存在が確認される，ことを基にした．
【結果】
a）胃癌部位（主）:噴門部;1例，体部:5例，前庭部:3例．組織型（主）:高分化:4例，低-未分化:5例．，b）腫瘍栓の広がり:脾静脈:3例，（脾静脈−上腸間膜静脈−門脈本幹）3管合流部:1例，門脈本幹:3例，肝内＋肝外全体：1例，肝内門脈左枝:1例．C）これらa）とb）の関連：1）噴門部（1例）；脾静脈，2）体部（5例）；脾静
脈（3/5）, 肝内＋肝外全体（1/5），肝内門脈左枝（1/5），3）前庭部（3例）:門脈本
幹（3/3）,d）側副血行路:胃大網静脈（2例;共に脾静脈例），CTPV（4例，全て，3管合流部，または，門脈本幹例）e）遠隔転移:肝;3例，脾:1例，リンパ節:3例，で，肝脾転移は，全て体部癌例．
【まとめと考察】
以前は門脈腫瘍栓の合併はほぼ肝細胞癌例に限定されていたが，画像診断の普及の伴い，少数例ではあるが，他の腫瘍にもみられることが明らかになった．胃癌に伴う門脈腫瘍栓の報告は，1986年のAruga et al　が最初で，それ以後，約30例の報告がある．胃癌は高齢者に多く見られる腫瘍であるが，門脈腫瘍栓を伴う胃癌
例は圧倒的に，60歳台の男性に集中していた．これが本症の一般的傾向なのか，その場合，いかなる機序によるのかは，今後の症例の蓄積が必要であるが，興味のある結果である．その他の特徴として，胃癌の組織型と門脈腫瘍栓出現の関連は薄いが，占拠部位と門脈腫瘍栓の箇所とは密接な関連がある，事が挙げられる．具体的には，a）
胃体部癌は，脾静脈中心に腫瘍栓を，b）胃前庭部癌は，門脈本幹中心に腫瘍栓を，形成する傾向がある．また，全例で，肝転移（＋）例は，脾静脈に門脈腫瘍栓があった例に限られていた事は，胃癌の進展形式を考える上で興味ある結果である．今後，胃癌例に術前検査の際は，これらの傾向を考慮して門脈も慎重に観察すべきと思われる．
【参考文献】
1.Aruga A, Watanabe T, Hiyama Y et al. A case of tumor thrombus of the extrahepatic portal vein （cavernous transformation） secondary to gastric cancer. Nippon Shokakibyo Gakkai 1986 ;83: 2243-7.