Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
循環器:症例4

(S481)

SLEに合併した椎骨動脈炎を超音波検査にて確認し得た一例

A case of vertebral arteritis in systemic lupus erythematosus

高坂 仁美1, 濱口 浩敏2, 今西 孝充1, 林 伸英1, 木下 承晧1, 辻 剛3, 河野 誠司1, 熊谷 俊一1, 4

Hitomi KOUSAKA1, Hirotoshi HAMAGUCHI2, Takamitsu IMANISHI1, Nobuhide HAYASHI1, Shouhiro KINOSHITA1, Goh TSUJI3, Seiji KAWANO1, Shunichi KUMAGAI1, 4

1神大学医学部附属病院 検査部, 2神戸大学医学部附属病院神経内科, 3神戸大学医学部附属病院免疫内科, 4神戸大学医学部附属病院神戸大学大学院医学研究科臨床検査医学

1clinical laboratory,kobe university hospital, 2neurology, kobe university hospital, 3immunolog, kobe university hospital, 4Division of clinical Pathology and Immunology,kobe university graduate school of medicine,kobe university hospital

キーワード :

膠原病では,全身の血管炎を合併することが多い.全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus,以下SLE)についても例外でなく,二次性に細小動脈の血管炎を認めることがあるが,大血管系ではあまり認められない.一方,椎骨動脈に炎症をきたす病態としては,血管炎症候群の中でも大血管炎である高安動脈炎や側頭動脈炎がある.血管炎により頸動脈閉塞が起こると脳梗塞を合併することがあり,迅速な診断加療が必要である.その際,超音波検査は非侵襲的であり,全身血管の評価をするためのスクリーニング検査として優れている.今回我々は,SLEの経過中に椎骨動脈にのみ血管炎をきたし,頸動脈超音波検査で病変の同定,治療による改善を確認できた症例を経験したので報告する.
【症例】
24歳女性.
【既往歴】
小児期に髄膜炎.23歳時甲状腺腫瘤.
【経過】
23歳時に腹膜炎,白血球減少,抗核抗体陽性,抗DNA抗体陽性,低補体血症からSLEと診断され,プレドニゾロン(以下PSL)とタクロリムスで継続加療されていた.24歳時に37℃台の発熱と腹痛,嘔吐,下痢が出現しSLEの再燃と考えられ入院.頬部紅斑,腹膜刺激症状,膀胱刺激症状が認められたが,頭痛,めまい,後頸部痛は認めなかった.左右側頭動脈に圧痛,怒張なし.頸部雑音なく,血圧の左右差も認めなかった.その他神経学的にも異常所見を認めなかった.血液検査では,補体低下と抗DNA抗体上昇を認め,SLE再燃と診断した.一方,CRPとMPO-ANCAは陰性であった.ステロイドパルス療法ののちPSL40mgおよびシクロスポリン75mgの併用にて腹膜炎症状,膀胱炎症状は寛解した.
入院中,血管病変評価のため頸動脈超音波検査を施行.その際,左椎骨動脈のIMCは全周性に肥厚しており,内腔の狭小化を認めた.同部位のIMCエコー輝度は低く,短軸像ではhalo様に描出された.血流速度の増加は認めなかった.その他総頸動脈,鎖骨下動脈,側頭動脈,上腕動脈には異常所見を認めなかった.また,頸部MRI検査でも,左椎骨動脈に全周性の炎症像を認め,内腔の縮窄を認めた.胸腹部CTでは大動脈およびその分岐に血管病変を認めなかった.以上より高安動脈炎や側頭動脈炎とは診断できず,SLEに伴う椎骨動脈炎と診断した.SLEに対する治療に伴い5ヶ月後の頸動脈超音波検査では血管炎の所見は消失していた.
【考察】
椎骨動脈に炎症をきたす病態として,高安動脈炎や側頭動脈炎がある.高安動脈炎は若年で発症し,大動脈のみならず鎖骨下動脈から椎骨動脈にも炎症が波及する全身性血管炎である.一方,側頭動脈炎は中高年に発症し,側頭動脈病変のみならず,頸動脈,椎骨動脈にも炎症をきたすことがあり,ときにリウマチ性多発筋痛症を合併する.これら血管炎の局所診断法として,血管超音波検査はIMCの全周性肥厚およびhalo signや,血管内腔の縮窄・閉塞を評価することができ有用である.本例では椎骨動脈に血管炎を確認できたが,他の全身血管に炎症像は認めなかったため,高安動脈炎,側頭動脈炎のいずれも積極的には考えにくい病態であった.また,MPO-ANCAも陰性であり,ANCA関連血管炎も否定的であった.SLEでは,二次性に血管炎をきたすことはよく知られているが,椎骨動脈に限局して血管炎をきたした症例は今までに報告がなく,非常にまれな症例と考え報告する.