Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
循環器:症例4

(S480)

心臓超音波検査が診断のきっかけとなった多発性骨髄腫の一例

Usefulness of Echocardiography: A case of Cardiac Amyloidosis with Multiple Myeloma

小見 亘, 小島 洋, 山本 花奈子, 加藤 千恵子, 佐伯 隆広, 阪上 学, 中村 由紀夫

Wataru OMI, Hiroshi KOJIMA, Kanako YAMAMOTO, Chieko KATOU, Takahiro SAEKI, Satoru SAKAGAMI, Yukio NAKAMURA

独立行政法人国立病院機構金沢医療センター循環器科

Department of Cardiology, National Hospital Organization Kanazawa Medical Center

キーワード :

症例:75歳男性.主訴:労作時息切れ.既往歴:74歳十二指腸潰瘍.
現病歴:十二指腸潰瘍にて近医に通院中であったが,2008年3月頃から下腿浮腫が出現.検尿にて蛋白尿を認め近医に紹介となったが明らかな腎炎の所見はなく経過観察となった.4月から排尿困難を自覚,当院泌尿器科にて前立腺肥大症と診断され経尿道的前立腺切除術が施行され自覚症状の改善を認めた.また同じ頃から右手優位の運動障害・感覚障害を自覚,手根管症候群の診断にて当院整形外科で神経剥離術を施行された.9月にBNP高値を指摘され当院循環器科を紹介受診となった.心電図にてR波の増高不良,胸部レントゲンにて心陰影の拡大を認めた.心臓超音波検査を行ったところ,びまん性の壁肥厚および心室壁の斑点状高輝度エコーを認めた.左室流入血流速はE/A 0.79と拡張障害型を呈していた.以上の所見より心アミロイドーシスを疑い精査を勧めるも自覚症状が乏しく多忙とのことで承諾が得られなかったため,紹介医で消化管の生検を勧めた.紹介医にて直腸内視鏡を施行,直腸炎の部位から採取した生検にてアミロイド沈着を認めた.労作時の息切れが次第に増強したため11月当院循環器科を再診,精査加療のため入院となった.身体所見:Raccoon eyes(+).血圧 102/74, 脈拍 96/分・整.心音 収縮期駆出性雑音,IV音を聴取.呼吸音 清明.下肢にわずかに浮腫を認めた.
入院時検査所見:総蛋白の減少,LDHの軽度上昇,正球性貧血,尿蛋白(2+)を認めた.膠質反応は正常であった.またBNP 712.4と高値を認めた.心電図で四肢低電位,R波の増高不良を認めた.胸部レントゲン写真では心陰影の拡大と胸水を認めた.入院後経過:心臓超音波検査では前回認めた左室壁肥厚・斑点状高輝度エコーに加え,少量の心嚢水の出現を認めた.左室流入血流速波形はE/A 1.03,DcTの短縮を認め拘束型を呈していた.心電図の経時的変化,心臓超音波検査の所見より心アミロイドーシスを疑った.心臓カテーテル検査では冠動脈に異常はなく,右室心筋生検にてアミロイド沈着(AL型)を認めた.また以前当院で行われた経尿道的前立腺切除術の組織を再検・特殊染色を行ったところアミロイド沈着を認めた.血清および尿蛋白電気泳動にてIgA(λ) typeのmonoclonal γ-pathyを認めたため骨髄穿刺を行ったところ,形質細胞の増生を認め多発性骨髄腫の診断に至った.Spironolactone, torasemide, carvedilol内服の上血液内科転科とし,化学療法を開始・経過観察中である.
考察:アミロイドーシスは確定診断がしばしば困難であり,特に心合併症を来している場合には既に予後が悪いとされている.ALアミロイドーシスに対し化学療法や幹細胞移植により心機能の改善や長期生存を認めたという報告も散見され,早期の診断・治療開始が重要であると考える.本例も多彩な臨床症状を呈するも,いずれも非特異的なものであり,心臓超音波検査所見が確定診断の契機となった.本症例につき文献的考察とあわせ報告する.