Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
循環器:症例2

(S476)

非心臓手術後に僧帽弁弁下部組織の異常による重症僧帽弁逆流症を発症した2症例

Two case reports of severe mitral valve regurgitation after non-cardiac operation due to abnormality of subvalvular apparatus of mitral valve

野中 顕子1, マリース チュガード1, 合田 麻美2, 山本 正子2, 魚橋 志奈子2, 植戸 陽子2, 中山 亮一2

Akiko NONAKA1, Marie STUGAARD1, Mami GOUDA2, Masako YAMAMOTO2, Shinako UOHASHI2, Youko UETO2, Ryouichi NAKAYAMA2

1兵庫県立がんセンター 循環器内科, 2兵庫県立がんセンター生理機能検査

1Department of Cardiology, Hyogo Cancer Center, 2Clinical Laboratory, Hyogo Cancer Center

キーワード :

今回,我々は,悪性腫瘍手術後,僧帽弁逆流症による心不全を発症した2症例を経験したので報告する.両症例とも,僧帽弁葉の肥厚,乳頭筋,腱索の異常とともに,心不全時に顕著になる僧帽弁テント化が認められた.
【1例目】
71歳男性,肺癌術後に重症僧帽弁閉鎖不全症発症(第81回日本超音波医学会総会で報告).急性心不全での頻回の入退院歴があり,心停止から蘇生された経験もあった.心不全の原因は不明とされていた.当院での術前の心エコーにて,僧帽弁逆流軽度認めるのみであり,右下葉切除術施行.術後7日目にAf発症,ジソピラミドにて洞調律に戻り,内服継続していたが,4日後に急性心不全発症.心エコーにて重症MRを認めた.LVDd 48mmと左室拡大はなかったが,収縮期に僧帽弁弁尖の不完全閉鎖を認め,tenting height(TH) 13mmであり,収縮期tetheringによる重症MRであった.TTE,TEEにて心尖部に過剰乳頭筋をみとめ,僧帽弁前尖に連続する腱索を認めた.PM側の腱索の肥厚短縮も認めた.
【2例目】
77歳男性,胃癌術後2日目に心不全発症.TTEにて重症MRを認めた.1例目と同様に左室拡大なく,収縮期に僧帽弁弁尖の不完全閉鎖を認め,AL側の腱索の肥厚短縮もあり,TH 10mm,収縮期tetheringによる重症MRであった.術前は洞調律,心不全発症時はAfであったが1例目にジソピラミド投与後に心不全発症した可能性を危惧し,HRコントロールおよび利尿剤投与で加療した.
【考察】
僧帽弁狭窄症でない僧帽弁肥厚を伴う僧帽弁逆流症は,リウマチ性MRまたは単なる動脈硬化性変化と診断され,検査時の逆流が軽度であれば,特に注意を払われることもない.
しかし,弁下部構造異常により弁葉の可動制限を伴うMRであれば,上記2例のごとく,有意な左室拡大にいたらない程度の軽度の負荷により重症僧帽弁逆流をきたす.
教科書的には,機能性僧帽弁逆流症では弁葉異常はないと記載されているが,この2症例は軽度の弁尖肥厚と弁下部構造異常を伴う機能性僧帽弁逆流症であった.しかも,術前には軽度MRとのみ診断,術後心不全発症の予測はできなかった.ルーチン検査においても僧帽弁肥厚を伴うMR症例には,僧帽弁狭窄症がなくとも,乳頭筋,腱索も含めて弁下部病変を詳細に観察して重症MR発症を予測することが重要であると考えられた.