Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
循環器:症例3

(S476)

僧帽弁置換術後早期に血栓による人工弁開放障害をきたした一症例

A Case of Massive Thrombus in Left Atrium that Caused Immobilized Mitral Prosthetic Valve and Post-operative Congestive Heart Failure

牛山 多恵子1, 大西 智子1, 小山 真理子1, 金羽 美恵1, 児島 純司1, 木原 康樹2

Taeko USHIYAMA1, Satoko OHNISHI1, Mariko KOYAMA1, Mie KANEHA1, Jyunji KOJIMA1, Yasuki KIHARA2

1洛和会音羽病院臨床検査部, 2広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態情報医科学講座循環器内科学

1Clinical Laboratory, Rakuwakai Otowa Hospital, 2Department of Cardiovascular Medicine,Hiroshima University Graduate School of Biomedical Sciences

キーワード :

【症例】
58歳 男性
【現病歴及び経過概要】
2年前から動悸と下腿浮腫あり.徐々に増悪するため,平成19年5月近医を受診した.心雑音・不整脈を指摘され,精査のため当院へ紹介された.心房中隔欠損,僧帽弁閉鎖不全症・腱索断裂,心房細動と診断した.6月24日,自己心膜による心房中隔欠損閉鎖術,僧帽弁閉鎖不全症に対して機械弁を用いた僧帽弁置換術,心房細動にMaze手術,三尖弁閉鎖不全症に対し人工リングを用いた三尖弁輪縫縮術を施行した.術後CPK10,281と高値を認め,腎機能障害も合併した.心機能障害も認め,一次,利尿剤,DOA・DOBを大量に使用した.心房細動も残存していたため,INRは1.5であったがワーファリンを導入開始した.術後経過を,心エコーで観察していた処,7月1日に僧帽弁人工弁の開放障害を認めた.右心不全を伴う循環不全所見も認められた.7月10日に冠動脈造影ならびに左室造影にて人工弁の開閉を確認した.冠動脈所見は正常であったが,人工弁は両弁の開放が高度に制限されていた.準緊急にて7月11日に再手術を行った.人工弁は附着血栓により開放障害を生じており,同血栓ならびに術中に見出された左房内血栓を摘出除去した.
【第1回目術前心エコー図】
EF64%,心室中隔に右室からの圧排を認めた.IVCは20mmと開大し呼吸変動は低下していた.僧帽弁後尖逸脱様の逆流が高度に見られ,左房内に腱索断裂像を描出した.心房中隔に16mmの欠損孔(L→Rシャント血流)を認めた.
【第1回目術後1日目心エコー図】
下壁から後壁,後側壁にかけて広範囲の壁運動低下を認めた.EF41%.ASDシャントは消失,右心系の開大所見は残存していた.
【第1回目術後7日目心エコー図】
壁運動異常は残存し,ほぼ無収縮であった.僧帽弁人工弁の左室流入血流が中隔方向と後壁方向の2方向にV字様に描出された.パラリークは認めなかった.
【心臓カテーテル検査】
弁透視では,開放・閉鎖のTime Delayはなく,両弁で開放が同程度かつ高度に制限されていた.左右冠動脈とも狭窄病変はなかった.
【第2回目手術所見】
肺静脈流入部付近に中等度の新鮮血栓が存在していた.僧帽弁人工弁のヒンジ部分には白色血栓が附着し開放制限を生じていた.人工弁自体には破壊が無かったため,血栓を除去し洗浄後左房を閉鎖した.右心耳にも赤色血栓が充満していたため心耳を摘出した.
【第2回目術後心エコー図】
心機能はEF30〜35%と術前と変わらず低下しているが,心腔の膨満は両心ともに軽減し,僧帽人工弁の流入血流も正常化していた.
【第2回目術後経過】
術後早期よりに抗凝固療法,抗血栓療法を開始した.その後,左室下後壁障害に対し,βblockerを導入した.以降の経過は順調である.
【考察及びまとめ】
本症例は,第1回目術後のワーファリン投与が適切であったにもかかわらず右心耳及び左房内に大量の血栓が形成された.凝固機能に異常があると考え,検索を行ったところ,第VIII凝固因子活性とホモシステインがともに高値であった.ホモシステインは第VIII凝固因子活性高値に付随すると考えられたため,本例の術後血栓症は第VIII凝固因子活性高値が主原因であると想像された.術後7日目に生じた僧帽弁置換弁開放障害は人工弁自体の故障ではなくそれに附着した血栓が原因であることが判明したが,経胸壁心エコー検査によりその病態を早期に発見することが可能であった。