Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
循環器:症例2

(S474)

体位変換により低酸素血症をきたした心房間シャントの一例

A case of positional deoxia caused by a shunt between right and left atriums

漁 恵子, 川合 宏哉, 山脇 康平, Salem Omar Alaa Mabrouk, 福田 優子, 岡田 真理子, 則定 加津子, Maky 古木, 辰巳 和宏, 大西 哲存, 平田 健一

Keiko RYO, Hiroya KAWAI, Kouhei YAMAWAKI, Salem Omar Alaa Mabrouk, Yuko FUKUDA, Mariko OKADA, Kazuko NORISADA, Maky FURUKI, Kazuhiro TATSUMI, Tetsuari OONISHI, Ken-Ichi HIRATA

神戸大学病院循環器内科

Cardiology, Kobe University Hospital

キーワード :

 症例は45歳男性.体位変換により出現する呼吸困難を主訴に当院を受診した.1974年(11歳時)にFallot四徴症の根治術を受け,その後の経過は良好であった.1998年(35歳時)に初めて呼吸困難が出現,近医の心エコー図検査にて肺動脈弁位術後状態による閉鎖不全症を指摘されたが経過観察とされた.その後,呼吸困難は増加し,また呼吸困難が仰臥位などのある一定の体位や条件で出現することに患者本人が気付いたが,症状の出現しない時には中等度の運動が可能であった.2004年(41歳時),読経中に突然高度の呼吸困難が出現し,他院の救急外来を受診,SpO2 82%の一過性低酸素血症を認めたため,入院となった.心エコー図検査にて心房中隔欠損を指摘されたが,シャントと呼吸困難の因果関係が明らかではなく,さらに手術適応なしと判断され,退院となった.その後も容易に呼吸困難が出現するため在宅酸素療法が導入されたが,社会復帰は困難な状況であった.数か所の医療機関を受診するも明らかな原因がわからず,当院を受診し,体位変換により出現する低酸素血症の精査目的にて入院となった.
 パルスオキシメーターにより体位と低酸素血症の関係を調べたところ,仰臥位,前屈位,物を持ち上げる姿勢や胸郭圧迫にて低酸素血症が誘発され,体位の変換にて低酸素血症は改善した.心エコー図検査では中等度の右室・右房拡大,中等度の肺動脈弁逆流ならびに三尖弁逆流が観察され,また,上位心房中隔には約6〜8mmの欠損孔を認めた.カラードプラ法により心房間シャントは左→右が優位であったが,収縮期に右→左シャントのカラーシグナルを認めた.また心房中隔は収縮期に右房側から左房側への膨隆を認めた.用手攪拌によるコントラスト心エコー図検査を施行し,左心系にコントラストエコーが出現した後,1-2心拍遅れて,右房,右室に多量のコントラストエコーを確認した.ただし,シャント量は同一体位でも変動し,体位や心時相のほかに別の要因が関与しているものと考えられた.さらに心エコー図検査ならびに胸部造影CT検査により,他のシャント疾患は否定的であり,造影CT検査においても両心房が描出される断層像にて心房間右→左シャントが確認された.右心カテーテル検査では,右房レベルで酸素分圧の上昇を認め,Qp/Qsは1.2と計測されたが,左右心房圧の同時測定では,両心房圧は正常範囲ではあるものの収縮期に右房圧が左房圧より一過性に上昇する病態が観察された.また,吸気時と呼気時に2回右房造影を施行し,ともに収縮期に心房間右→左シャントを確認し,シャント量は呼気時に比し吸気時に増加した.以上の結果と低酸素血症が出現する条件から,低酸素血症は心房間右→左シャントが原因であり,変動する理由としてFallot四徴症術後の肺動脈弁逆流や三尖弁逆流による右室負荷,体位変化によって生じる心臓の位置変化,呼吸による変化や胸腔内圧の変化などが総合的に関連していると考えられた.
 体位変換による低酸素血症としてPlatypnea orthodeoxia syndromeの概念がある.本症例は同概念に一致はしないものの,体位や呼吸の変化によりシャント量が変動する点で類似病態と考えられた.今回体位変換により増加する心房間シャントによって低酸素血症をきたした一例を経験したため,文献的考察を含め報告する.