Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般ポスター
循環器:症例1

(S470)

左室内血栓症を合併した2症例:心エコー図によるリスク層別化

2 Cases of Left Ventricular Thrombosis: Risk Stratification for Embolic Event by Echocardiography

村田 幸栄1, 小野 史朗2, 國近 英樹2, 松本 勝彦1, 安田 優子1, 縄田 純子1

Sachie MURATA1, Shiro ONO2, Hideki KUNICHIKA2, Katsuhiko MATSUMOTO1, Yuko YASUDA1, Junko NAWATA1

1済生会山口総合病院中央検査部, 2済生会山口総合病院循環器内科

1Department of Clinical Laboratory Medicine, Saiseikai Yamaguchi General Hospital, 2Division of Cardiology, Saiseikai Yamaguchi General Hospital

キーワード :

左室内血栓症は左室壁運動異常や左心機能低下に関連して生じるとされており,その代表的疾患には急性・陳旧性心筋梗塞や非虚血性拡張型心筋症などがある.血栓塞栓症の合併は予後に悪影響を及ぼす可能性もあり,早期発見と適切な治療が予後改善に重要である.左室内血栓症の早期発見に心エコー図検査は不可欠な検査法であり,治療効果の判定にも有用である.今回,心エコー図にて左室内血栓を経時的に観察し得た2症例を経験したので報告する.(症例1)40歳代,男性.左前下行枝#7を責任病変とする急性心筋梗塞にて救急搬送された.#7にステントを留置し,TIMI 3の良好な再灌流が得られた.第3病日の心エコー図では心室中隔〜心尖部にかけて壁運動低下,特に心尖部はAkinesisを呈していた.心尖部にやや高輝度で内腔に突出した隆起性病変が観察された.左室内にもやもやエコーがみられ,梗塞部位に一致していたことより血栓を疑い,直ちにワーファリン投与を開始した.心尖部腫瘤は徐々に消退し,第19病日の心エコー図ではもやもやエコーは残存するものの腫瘤は消失していた.経過中に血栓塞栓症を疑わせる所見はなく,PCI後の経過は良好であった.(症例2)40歳代,男性.2006年に心臓カテーテル検査,心筋生検を施行され,拡張型心筋症と診断されていた.労作時呼吸困難,起座呼吸など心不全増悪を疑われ紹介となった.BNPは1298.3pg/mlと著明に上昇,Dダイマーも3.6μg/mlと軽度上昇していた.心エコー図では左室拡張末期径77.4mmと著明に拡大,左室壁運動はびまん性に高度低下し,左室駆出率24%と高度収縮不全を呈していた.僧帽弁血流速波形はRestrictive Patternであった.左室心尖部に左室腔内に突出した可動性を有する隆起性病変が観察された.左室内血栓を疑い,直ちにワーファリンを投与した.脳内血管腫・血腫を合併,脳内出血のリスクもあったためヘパリン投与は見合わせた.心不全症状は改善傾向を示したが,第5病日に突然腹痛を生じた.造影CTにより上腸間膜動脈血栓症,脾梗塞と診断された.ウロキナーゼ,ヘパリンを投与し,上腸間膜動脈の血流は改善した.心エコー図では心尖部にみられた腫瘤は消失しており,心原性血栓塞栓症を生じたことが示唆された.(考察)左室内血栓症の好発部位は心尖部であり,隆起性血栓や可動性を有する場合は塞栓症のリスクが高いとされている.2症例ともに心尖部隆起性血栓であり,塞栓症に注意する必要があった.症例1は早期のワーファリン投与が功を奏したが,症例2では積極的な抗凝固療法を躊躇したことが塞栓症を生じた一つの要因と考えられた.特に高度な左心機能低下例では左室内血栓症の頻度が高く,血栓の早期発見および積極的な抗凝固療法を心掛ける必要がある.心エコー図は左室内血栓症のスクリーニングだけでなく,塞栓症のリスク評価や抗凝固療法の効果判定に有用な検査法である.(結語)左室内血栓症のハイリスク患者においては,心エコー図による詳細なスクリーニングや注意深い経過観察が血栓塞栓症のリスク軽減に有用と思われた.