Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
整形外科:整形外科2

(S460)

肩峰下滑液包局麻剤注射による除痛効果-超音波ガイド下と盲目的注入の対比-

Effectiveness for treatment of subacromial bursa injection with only lidocaine hydrochloride−Ultrasound-guided injection vs Blind- injection

橋内 智尚1, 櫻井 悟良2, 酒本 佳洋2

Tomohisa HASHIUCHI1, Goro SAKURAI2, Yoshihiro SAKAMOTO2

1天理市立病院整形外科, 2西奈良中央病院整形外科

1Orthopedic surgery, Tenri City Hospital, 2Orthopedic surgery, Nishinara Central Hospital

キーワード :

【目的】
 肩関節痛に対する肩峰下滑液包(以下SAB)への盲目的注射は日常の診療の中でよく行われている.盲目的な方法でSABに薬液を注入できているかは不確かで効果に違いがある可能性がある.今回我々は超音波装置を利用して注射した場合と盲目的に注射した場合でとで,効果に差が出るかを調査したので報告する.
【対象と方法】
調査①:超音波ガイド下注射でSABに注入できるか?肩関節の観血的手術前に超音波ガイド下でSABに注射を行い,SAB内に注入できているかを手術中に確認した.調査②:超音波装置を利用した場合と盲目的に注射を行った場合で除痛効果の差が出るか?肩関節痛を主訴に来院した患者のうち,痛みの原因がSABに由来すると考えられる症例を対象とした.症例は10例13肩で,平均年齢は57.6歳(43〜71歳)であった.SABへの注射は盲目的注射と超音波ガイド下注射とも肩峰の外側よりSABへ向けて注射することとした.薬剤は1% Lidocaineのみを2ml注入した.注射施行者は卒後12年目の日本整形外科学会専門医一人で,まず超音波ガイド下に注射を行い,その1週間後同一患者に盲目的注射を行った.評価方法は注射前,注射1分後,注射5分後,注射10分後,注射15分後,注射20分後,注射25分後,注射30分後に疼痛の出る肢位を再現してもらい,疼痛の程度を0〜10まで0.5刻みに21段階に点数表示した疼痛スケールを用いて,その時の疼痛程度を疼痛点数として示してもらった.注射前と各評価時間での点数の差を出して,その値を注射前の点数で除した数値を軽快率として算出し比較検討した.調査③:患者はSABへの注射方法として,超音波ガイド下注射を希望するのか盲目的注射を希望するのか?本研究終了後,注射を受けた患者全員にアンケートをとった.
【結果と考察】
 調査①の結果:SABが全体的に青く染色され,SABを指で上から触ると軽い弾力感を感じることができ,SABは染色液で充満されていた.調査②の結果:全症例とも超音波ガイド下注射と盲目的注射の両方で疼痛点数の軽減を認め,本研究調査時間である30分間に注射前の点数にまで戻ることは無かった.軽快率の平均値は全ての時間帯で超音波ガイド下注射が盲目的注射より勝っており,1分後,5分後,10分後,20分後,25分後,30分後の軽快率において有意差を認めた(P<0.05).各症例の最高軽快率が認められた評価時間を調べると,超音波ガイド下注射では10分後までに全ての症例で認められたが,盲目的注射では5肩が15分後までかかった.疼痛が100%消失したのは超音波ガイド下注射で7肩あり,盲目的注射では5肩だけであった.調査③の結果:10人中9人が超音波ガイド下注射を希望された.
全症例とも超音波ガイド下注射と盲目的注射の両方で疼痛点数の軽減が認められたが,超音波ガイド下注射の方が明らかに減少しており,軽快率に関しては15分後を省くすべての時間帯で有意差を認めた.また,最高軽快率出現の時間においても盲目的注射より早く出る傾向にあった.このことから除痛を目的にSABへ注射する場合は,盲目的ではなく超音波ガイド下に注射するほうが効果を出しやすいと考えられる.
【結論】
 超音波ガイド下注射をすることでSABに薬剤を正確に注入することができ,その効果は盲目的注射に勝っていた.また,注射を受ける側の患者は,その多くにおいて盲目的注射より超音波ガイド下注射を希望しており,この方法は非常に有益な手段であると考えられる.