Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
腎・泌尿器:腎・泌尿器2

(S433)

移植腎に発生した移植後リンパ増殖疾患の一例

Lymphoproliferative disorder after renal transplantation: a case report

武輪 恵1, 平井 都始子2, 丸上 永晃2, 伊藤 高広1, 山下 奈美子2, 吉田 美鈴2, 米田 龍生3, 吉田 克法3, 平尾 佳彦3, 大石 元2

Megumi TAKEWA1, Toshiko HIRAI2, Nagaaki MARUGAMI2, Takahiro ITOH1, Namiko YAMASHITA2, Misuzu YOSHIDA2, Tatsuo YONEDA3, Katsunori YOSHIDA3, Yoshihiko HIRAO3, Hajime OHISHI2

1奈良県立医科大学放射線科, 2奈良県立医科大学中央内視鏡・超音波部, 3奈良県立医科大学泌尿器科

1Department of Radiology, Nara Medical University, 2Department of Endoscopy and Ultrasound,Nara Medical University, 3Department of Urology, Nara Medical University

キーワード :

【はじめに】
移植後リンパ増殖性疾患(Post-transplant lymphoproliferative disorder : PTLD)は,移植後の免疫不全状態において発症する主にB細胞性のリンパ増殖性疾患であり,移植腎においては,その約1%に発生するとされている.今回,我々は腎移植後1年半で,移植腎の腎門部血管尿管周囲にリンパ増殖性疾患による腫瘤を形成した症例に超音波検査を施行する機会を得た.本例は,腎移植後の腎盂腎炎罹患時にも,超音波検査を施行しており,両病態での超音波所見と比較して,PTLDの超音波所見について考察する.
【症例】
60歳代,男性.
【主訴】
発熱,膿尿.
【既往歴】
30年前にIgA腎症を発症し,その17年後に維持透析導入となった.
【現病歴】
平成19年5月に腎移植術を施行された.同年12月に移植腎の腎盂腎炎を発症し,抗生剤で治癒.その後,移植腎機能良好で外来経過観察中であったが,平成20年10月に乏尿傾向増悪および発熱および腹部超音波で水腎症を指摘され入院となった.
【平成19年12月腎盂腎炎罹患時の腹部超音波所見】
移植腎は著明に腫大し,皮髄境界はやや不明瞭であった.中央部内側に周囲腎実質よりも不均一な低エコーを示す領域を認め,カラードプラ法では移植腎中央から下極と上極の血流表示が乏しくなっていた.腎盂腎杯,尿管には全体的な壁肥厚および腎盂周囲の血流信号の増強を認めた.腎門部の尿管血管周囲に不整形の不均一な低エコー腫瘤を認め,膿瘍を疑った.
【平成20年11月の腹部超音波所見】
移植腎の大きさは正常範囲内.上極は腫大し,前回血流の乏しかった下極は萎縮傾向.皮髄境界は不明瞭で,腎実質内のエコーレベルは不均一であった.尿管壁の肥厚の程度が強くなっており,その周囲の血流信号は増強していた.腎門部に尿管を取り巻くように不整形の低エコー腫瘤を認め,この腫瘤に圧排されるように尿管が狭窄していた.尿管の内面は平滑であった.低エコー領域にはカラードプラ法で軽度の血流信号を認めた.
【平成20年11月のCT所見】
移植腎の腎門部における血管や尿管周囲に不整形の造影効果の弱い軟部影を認めた.尿管はこの軟部影に巻き込まれて同定が困難となっており,軟部腫瘤による尿管狭窄と考えられた.
【経過および病理診断】
平成20年12月中旬に腎門部腫瘤に対して開腹生検が施行され,病理学的にEVvirus positive polymorphic B-cell PTLD, non-GCB phenotypeと診断された.現在,免疫抑制剤を減量し,病変縮小の経過観察中である.
【考察】
腎移植後のPTLDでは,移植腎の腎盂から腎門部にかけて腫瘤を形成することが多いと言われている.本例でも超音波検査で,尿管を取り巻く不整形の低エコー腫瘤を描出でき,この腫瘤により尿管が狭窄していることが診断できた.本例では,PTLD発症の約1年前に腎盂腎炎罹患時の超音波検査で,典型的な急性腎盂腎炎の超音波所見に加えて腎門部に不整形の低エコー領域が描出されていた.当時は膿瘍の可能性を考えていたが,今回のPTLDによる腫瘤と部位が一致しており,興味深い経過と考える.PTLDのうち,本例のようにEB virus関連のものは,移植後6か月から1年以内に発生する頻度が高いと言われており,特にこの時期に起きた水腎症や腎盂腎炎に遭遇した場合には,腎盂周囲や尿管周囲を詳細に観察し,PTLDを示唆するような不整形の腫瘤がないかどうかに留意することが肝要と思われる.