Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
産婦人科:産科

(S424)

妊娠中に発症した深部静脈血栓症の管理に下肢静脈エコーが有用であった一例

Management of DVT by ultrasonography during pregnancy a case report

新城 梓, 松岡 隆, 青木 弘子, 長谷川 潤一, 市塚 清健, 大槻 克文, 関沢 明彦, 岡井 崇

Azusa SHINJO, Ryu MATSUOKA, Hiroko AOKI, Junichi HASEGAWA, Kiyotake ICHIZUKA, Katsufumi OTSUKI, Akihiko SEKIZAWA, Takashi OKAI

昭和大学産婦人科学教室

Obstetrics and Gynecology, Showa University

キーワード :

〈緒言〉深部静脈血栓症(DVT)は妊娠中に発症頻度が上昇すると言われ,発症した場合は肺塞栓を防止するための厳重な管理が必要となる.今回我々は妊娠中に発症したDVTの管理に下肢静脈エコーを頻用した症例を経験したので超音波による血栓描出における問題点の考慮を加え報告する.
〈症例〉31歳,0経妊0経産.既往歴,家族歴に特記すべきことなし.
最終月経平成20年4月1日から5日間
妊娠26週1日,起床時に左下肢の腫脹を自覚し入浴時に左大腿内側の網状皮疹に気づいた.歩行時に疼痛を認め軽快しないため当科受診となった.
左下肢の腫脹と,歩行時左大腿背側に疼痛をみとめたが,Homan’s signは陰性だった.また入院時超音波所見で左大腿静脈と大伏在静脈合流部及び左膝窩静脈に明らかな血栓は検出されなかった.しかし,臨床症状とD-ダイマーの上昇(1.27μg/ml)よりDVTと診断した.血栓症の家族歴や既往歴はなく,凝固系検査の結果でも,AT-III 85%,プロテインC抗原 114%,プロテインS抗原 58%,ループスAC 0.90,活性第V因子 95%と明らかな血栓性素因はなかった.血栓の新たな発生を予防するためにヘパリン持続点滴(10000単位/日)と補液(2000ml/日)を開始したが,APTTが延長せず25000単位/日まで増量した.治療開始後,臨床症状の再燃はなかったが,第15病日(28週1日)に施行したMRI venographyで,両側大腿部,腹部,骨盤部の深部静脈の描出が不良であった.そのため再度下肢静脈エコーを施行したところ,完全閉塞には至らないが,大腿静脈と大伏在静脈の合流部に陳旧性の血栓を認めた.そのため血栓コントロールは不良と判断し治療薬をヘパリン持続点滴から低分子ヘパリン間欠的皮下注(フォンダパリンクス2.5mg/日)へ変更した.経時的に下肢静脈エコーを行ったところ血栓が縮小し,低分子ヘパリン開始27日後に消失した.低分子ヘパリン投与中止48時間後に計画分娩とし37週0日経腟分娩に至った.分娩後行った造影CTでは,下大静脈から両下肢静脈末梢までの間に血栓を認めなかった.産後はワーファリン内服を行った.
〈考察〉下肢静脈超音波を用いて,妊娠中に発生したDVTを経時的に評価し,治療方針の決定に役立てることが出来た.入院時臨床症状があるにもかかわらずエコーで血栓が検出されなかったのは,発症直後の新鮮な血栓は柔らかくaechoicであり,そのためエコーで描出しづらかったからと思われた.深部静脈血栓の検索にはプローべによる圧迫法,カラードプラやパワードプラを用い,静脈内の血流を観察し間接的に血栓の有無を判定するが,静脈内の血流と血栓を直接的に観察するためには適切な条件設定のBモードを選択することが重要であると思われた.