Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
産婦人科:産科

(S423)

胎児神経芽細胞腫によりMirror症候群を呈した1例

A case of Mirror syndrome associated with fetal neuroblastoma

山口 俊一, 山下 亜紀, 砂川 空広, 小松 篤史, 吉田 志朗, 兵藤 博信, 亀井 良政, 上妻 志郎, 武谷 雄二

Shun-ichi YAMAGUCHI, Aki YAMASHITA, sorahiro SUNAGAWA, Atsushi KOMATSU, Shiro YOSHIDA, Hironobu HYODO, Yoshimasa KAMEI, Shiro KOZUMA, Yuji TAKETANI

東京大学医学部附属病院産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, The University of Tokyo Hospital

キーワード :

高度な胎児水腫において母体が全身浮腫,貧血,低蛋白血症を呈し,さらに重症例では肺水腫により母体死亡に至ることがあり,この母体における病態は胎児の状態を反映していることからMirror症候群と呼ばれる.しかし,その臨床症状は妊娠高血圧症候群に類似しているため,妊娠高血圧症候群として管理されていることが多く,また分娩を契機に改善するためその病態についてあまり知られていない.今回我々は,妊娠中期の超音波検査にて胎児腹部腫瘤,胎児水腫,胎盤腫大を認め,Mirror症候群を呈した症例を経験し,その発症機序を理解するうえで興味深い知見を得たので報告する.
症例は29歳2回経妊1回経産婦.妊娠23週時,前医の超音波検査にて直径3cmの胎児腹部腫瘤を指摘された.妊娠25週0日に胎児MRI撮影を行い,腎芽腫が疑われた.妊娠25週6日に胎児心嚢液貯留を認め,妊娠26週0日当院紹介となった.初診時超音波検査所見は胎児推定体重は699g(−1.9SD),羊水量正常,左腎臓確認できず.左腎臓付近に39.1×25.3×45.7mm大の腫瘤を認めた.胎児心嚢液貯留を認めたが明らかな心奇形は認めず,胎児皮下浮腫を認め胎児水腫と診断した.また胎盤の腫大を認めた.妊娠26週5日,羊水過少,胎児水腫の増悪を認めた.また,母体に全身浮腫を認め,高血圧(143/86mmHg),蛋白尿(2+)を認めたため,妊娠高血圧症候群の診断にて緊急入院となった.血液検査上,貧血(Hb 9.9g/dl)血小板減少(2.4万)と,低蛋白血症(TP 4.3g/dl),腎機能障害(BUN 30.5mg/dl,,Cre 1.03mg/dl)を認めたが,肝酵素の上昇は認めなかった.上記検査結果により典型的な妊娠高血圧症候群とは異なりMirror症候群が疑われた.入院後血小板輸血と,DICに準じた治療を行いながら,分娩誘発を施行.妊娠26週6日,分娩誘発中に子宮内胎児死亡を確認.胸部レントゲン写真上,両側肺野透過性が低下し,軽度の肺水腫も認めた.妊娠27週0日,1241gの男児を経腟分娩にて娩出.児に明らかな外表奇形はないが胎児水腫,腹部膨満を認めた.胎盤は1100gであった.産褥1日目には急速に全身状態が回復し,産褥5日目に退院となった.
胎児・胎盤病理の肉眼所見として,左副腎腫瘍及び著明な肝転移と胎児水腫を認めた.組織学的検索により原発巣は左副腎神経芽腫であると考えられ,腫瘍は膵に直接浸潤しており,肝,胎盤,右副腎に転移を認めた.また全身臓器の血管内に腫瘍細胞を認めた.その後の母体経過に異常所見を認めていない.胎児神経芽腫の肝転移,胎盤転移,胎児水腫によりMirror症候群を発症したと考えられた.胎児超音波検査において,胎児水腫,胎盤肥厚を認める症例には,Mirror症候群を呈する可能性も考慮し治療にあたることが重要と考えられた.