Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
産婦人科:胎児心機能・血流

(S421)

正期産IUGRおいて脳血流再分配はCTG異常の出現を予測する因子となる

The Doppler cerebroplacental ratio predicts non-reassuring fetal status at risk for intrauterine growth restriction in term fetuses.

村田 晋1, 松浦 真砂美2, 住江 正大1, 中田 雅彦1, 杉野 法広1

Susumu MURATA1, Masami MATSUURA2, Masahiro SUMIE1, Masahiko NAKATA1, Norihiro SUGINO1

1山口大学医学部附属病院産科婦人科, 2山口大学医学部附属病院看護部

1Department of Obstetrics and Gynecology, Yamaguchi University School of Medicine, 2Department of Nursing, Yamaguchi University School of Medicine

キーワード :

【目的】
子宮内胎児発育不全(以下IUGR)は,妊娠週数に比べ胎児発育が抑制され,分娩時の胎児心拍異常出現率や,帝王切開率が高率であると言われている.通常,早産に至るようなIUGRでは,臍帯動脈,中大脳動脈,静脈管などの胎児血流異常を認める事があり,これらの血流指標は,non-reassuring fetal status(以下NRFS)の発症や,新生児予後不良因子との関連性が指摘されている.一方,正期産に至ったIUGRでは,早産に至ったIUGRのような血流異常を認める頻度が低く,NRFSの出現と胎児血流との関連性は明らかではない.そこで,正期産IUGRにおいて,脳血流再分配(Cerebroplacental ratio,以下CPR)がNRFS出現の予測因子となり得るか後方視的に検討した.
【方法】
当院にて2000年以降に分娩となった,出生体重が10%tile未満の単胎正期産IUGR309例を対象とした.同時期に出生体重が10%tile〜90%tileのAppropriate-for-Gestational age(以下AGA)410例を対照群とした.1,IUGRとAGAの2群間において,NRFS出現率と緊急帝王切開率を比較検討した.2,IUGR309例中63例(20.4%)において,分娩前1週間以内にCPR=中大脳動脈RI/臍帯動脈RI(MCA-RI/UA-RI)の測定を行い,NRFS出現の有無についてCPR値に有意差が存在するかを比較検討した.3,IUGR63例より得られたCPR値から,正期産IUGRにおけるNRFS発症予測を目的としたROC curveの作成を行った.
【結果】
1,NRFS出現率は,IUGRが27.8%(86/309)でAGAの18.0%(74/410)に対し有意に高率であった(p<0.05).更に,NRFSの出現に基づく緊急帝王切開率は,IUGRが14.6%(45/309),AGAが8.3%(34/410)であり,同様に有意差を認めた.2,分娩前にCPRの測定を行った63例中,25.4%(16/63)にNRFS出現を認めた.
NRFSの出現を認めた16例をNRFS出現群,NRFSの出現を認めなかった47例をNRFS非出現群とすると,NRFS出現群のCPR値は1.05±0.2 (mean±SD),NRFS非出現群のCPR値は1.23±0.2であり,NRFS出現群のCPRが有意に低値であった(p<0.05).なお,CPRの測定を行った全例において臍帯動脈血流の途絶,逆流は認めなかった.3,ROC curveより,CPR値1.1未満をcut off値と設定すると,正期産IUGRにおけるNRFS予測に対する感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率はそれぞれ62.5%,74.5%,45.5%,85.4%であった.
【結論】
単胎正期産IUGRは,AGAに比べNRFSの出現率が高く,緊急帝王切開となる頻度も高率である.更に,今回の検討から,NRFSの出現を認めたIUGRは,NRFSの出現を認めなかったIUGRに比べCPR値が低いことが判明した.この結果,正期産に至ることが可能で,それ以前に産科的娩出基準を満たさないようなIUGRでも,少なくとも分娩に至る1週間前には脳血流再分配を起こしていた事が推測された.今後,CPR値に関しては,前方視的に検討する必要があるが,CPRを分娩前に測定することで,正期産IUGRにおけるNRFS出現の危険群を抽出できる可能性が示唆された.