Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
産婦人科:胎児1

(S414)

自然消失した胎児腹水の2症例

Spontaneous Disappearance of Two Fetal Acites

橋本 玲子, 谷垣 伸治, 井上 慶子, 松尾 典子, 松澤 由記子, 上原 彩子, 嘉治 真彦, 岩下 光利

Reiko HASHIMOTO, Shinji TANIGAKI, Yoshiko INOUE, Noriko MATSUO, Yukiko MATSUZAWA, Ayako UEHARA, Masahiko KAJI, Mitsutoshi IWASHITA

杏林大学付属病院産科婦人科

Obstetrics and Gynecology, Kyorin University Hospital

キーワード :

【緒言】
胎児水腫は「胎児に発症した全身性の浮腫」と定義されるが,胎児の体腔の一部に液体貯留が存在する時は胎児腹水や胎児胸水と呼ばれる.今回我々は妊娠中に認めた胎児腹水が自然消失した原因が異なると思われる2症例を経験したので報告する.
【症例1】
35歳 1経妊1経産.家族歴,既往歴に特記すべきことなし.妊娠30週,胎児腹水のため紹介された.腹部超音波断層法にて胎児推定体重 (EFW) は1844g (97パーセンタイル) ,軽度の皮下浮腫及び少量の胎児腹水を認めた.心不全はなく,心臓を含めて構造異常を認めなかった.AFI (Amniotic Fluid Index) 25.1cm , AFP (Amniotic Fluid Pocket) 7cm と羊水過多がみられた.また,胎児心拍数モニタリングで胎児状態は良好であった.感染症検査 (トキソプラズマ,パルボウィルスB19,風疹ウィルス,サイトメガロウィルス,ヘルペスウィルス) は全て陰性,染色体は正常核型であった.1週間後,皮下浮腫の軽快と胎児腹水の消失がみられ,羊水過多も軽快,胎児発育も認められた.妊娠34週2日前期破水し,同日経腟分娩した.出生時体重は2031g Apgar score 1分値8点,5分値9点であった.日齢4日,排便があるも吸引にて胆汁様排液がみられ,腹部単純レントゲン撮影にて腸管拡張が認められた.日齢6日,排便が認められなくなり,超音波断層法や消化管造影検査にて小腸閉塞と診断された.同日,開腹術施行し,少量の黄色腹水及び,トライツ靭帯より60cmにポリープを先進部とする腸重積による小腸閉塞を認めた.小腸部分切除術及び小腸−小腸吻合術を施行し,児は良好な経過である.妊娠中に認めた腹水は,小腸閉塞により惹起された腸穿孔による胎便性腹膜炎が原因と考えられ,穿孔部が閉鎖したために所見が軽快したと思われた.
【症例2】
34歳 2経妊0経産.家族歴,既往歴に特記すべきことなし.妊娠30週,胎児腹水のため紹介された.EFWは1657g (73パーセンタイル),皮下浮腫と少量の胎児腹水を認めた.心不全はなく,構造異常,羊水過多を認めなかった.また,胎児心拍数モニタリングで胎児状態は良好であり,感染症検査は全て陰性であった.染色体は正常核型であった.胎児MRIでは腹水貯留に伴う空腸浮腫が疑われたが,明らかな原因疾患は指摘できなかった.妊娠35週,腹水がほぼ消失し,妊娠40週3日経腟分娩となった.出生時体重は3109g Apgar score 1分値7点,5分値8点であった.出生後,児の経過は良好であり,産褥5日に退院した.
【考察】
胎児水腫の原因は心・血管系異常,染色体異常,胸部異常,子宮内感染,血液型不適合妊娠,双胎間輸血症候群等があり,特発性は20〜30%を占める.症例1は小腸閉鎖が原因であった.小腸閉鎖は腹部超音波断層法で拡張した腸管が多発性の嚢胞として観察されることが多いが,本症例では認めなかった.胎便性腹膜炎は腹部超音波断層法で腸管拡張よりも羊水過多や胎児腹水を認めることが多いとされている.症例2では胎児腹水の原因は特定できなかった.自然消失する胎児腹水のなかにも,小腸閉鎖のような疾患も含まれることがあるため,頻回の腹部超音波検査による経過観察やMRI検査などの多方面からの評価が重要であると思われた.また,胎児腹水が消失した症例でも,出生後に疾患が見出される可能性があるため,充分な準備とハイリスク症例に対応可能な周産期医療施設で分娩管理を行うべきであると思われた.