Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
産婦人科:胎児1

(S413)

再貯留を繰り返した胎児胸水の1例

A case of fetal chylothorax with uncontrollable pleural effusion.

成島 三里, 三村 貴志, 青木 弘子, 長谷川 潤一, 松岡 隆, 市塚 清健, 岡井 崇

Misato NARUSHIMA, Takashi MIMURA, Hiroko AOKI, jyunichi HASEGAWA, Ryu MATSUOKA, Kiyotake ITIDSUKA, Takashi OKAI

昭和大学医学部産婦人科学教室産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Showa University School of Medicine

キーワード :

【緒言】
胎児胸水はその成因から,一次性(いわゆる乳糜胸)と胎児疾患に伴う二次性のものに分けられる.一次性胸水は,リンパ液の過剰産生,漏出,吸収障害などにより発症し,その頻度は12,000〜15,000の妊娠に1例と言われている.二次性胸水の原因は胎児心奇形,不整脈,貧血,肝代謝障害,CCAM,肺分画症,横隔膜ヘルニア,染色体異常,感染症などである.胎児胸水は胸腔内臓器の発達を妨げるとともに,循環障害,胎児水腫,肺低形成を引き起こすので,予後改善の為に胎児治療が必要となる症例がある.今回我々はその治療として胸水穿刺を行うも再貯留を繰り返した症例を経験したので報告する.
【症例】
39歳,0経妊.IVF-ETによる単胎妊娠.他院で胎児胸水を認めたため,31週0日に精査・加療目的で入院となった.入院時の超音波検査でEFW 2499g(+4.23SD),AC 322 o(+4.27SD)と腹水貯留による腹囲の増大を認めた.右側の胸水により縦隔は左方へ偏位し,肺胸郭比(LT比)15.7%と肺の圧排がみられ,頭部皮下浮腫が4 oあり胎児水腫の状態であった.AFI 29.6cmと羊水過多も認めた.NSTはreactive patternであった.心機能評価ではCTAR 22.1%,左室Tei index 0.33,右室PLI 0.3,Tei index 0.096と心不全兆候を認めず,臍帯動脈,中大脳動脈血流のRI値にも異常を認めなかった.また,MCA-PSV 50.6cm/sec(1.19MoM)であり,胎児貧血による水腫は否定的であった.原因検索のため行った羊水検査で染色体異常を認めず,TORCHなどの感染症も陰性であった.31週1日,診断及び胸腔内臓器への圧排を解除する目的で超音波ガイド下で胸腔穿刺を施行し,透明淡黄色の胸水62mlを吸引した.胸水血球成分の90%がリンパ球であったので,乳糜胸による胎児水腫と診断した.胎児胸腔穿刺後にLT比は29.0%まで回復した.しかし,その後胸水が再貯留し,1週間後にはLT比は16%まで低下した.32週2日再度胸水穿刺(105ml吸引)を行いLT比は41%まで回復したが,翌日には再貯留(LT比26%)を認めた.また,羊水過多に伴い子宮口が開大し,子宮収縮が出現したため31週6日より塩酸リトドリンの持続点滴投与を開始した.32週2日に羊水除去1100mlを行ったが,その後も急速にAFIの増加を認めた.胎児胸水及び,羊水の再貯留を繰り返すため,33週に胎児治療から新生児治療へ移行する予定であったが,32週6日に自然破水し,同日緊急帝王切開術で分娩に至った.児は女児,2363g,Apgar5/6であった.気管挿管しBaggingするもSpO2が60〜70%台であったのでトロッカー挿入による胸腔ドレナージを開始した.右胸腔穿刺で50mlの血性胸水を吸引し,SpO2 90%まで回復した.NICUで人工呼吸器管理を行い,日齢9にドレーン抜去,日齢10に抜管し,その後は胸水再貯留を認めず呼吸状態も良好となった.母体の経過は良好で術後8日目に退院した
【考察】
本症例では胎児の乳糜胸に対し2回の胸水穿刺を行ったが,短期間で再貯留を繰り返し,胎児胸腔−羊水腔シャントを行うのか,胎外治療へ移行するのかを悩む症例であった.胎児胸水を認めた場合,まず診断の確定を行い,児の状態と妊娠週数を考慮し,胎内治療をすべきか,いつ胎外治療へ移行すべきなのかを決定する必要があり,そのためには経時的に超音波検査で評価する事が重要であると思われた.