Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
消化器:びまん性肝疾患

(S401)

Velocity Vector Imagingを用いた肝の動き評価の試み

Evaluation of Movement of the Liver by using Velocity Vector imaging

紺野 啓1, 鯉渕 晴美1, 藤井 康友1, 谷口 信行1, 石田 秀明2

Kei KONNO1, Harumi KOIBUCHI1, Yasutomo FUJII1, Nobuyuki TANIGUCHI1, Hideaki ISHIDA2

1自治医科大学臨床検査医学, 2秋田赤十字病院内科

1Department of Clinical Laboratory Medicine,Jichi Medical University, 2Department of Internal Medicine,Red Cross Hospital Akita

キーワード :

【目的】
肝臓の生体内における動きは非常に複雑だが,ある特定の条件下ではこれを客観的に示すことが可能である.我々は第76回学術集会において,肝左葉辺縁に存在する血管腫の呼吸に伴う位置変化により,肝左葉の動きを表現することを試みたが,これは上記の1例である.一方,Velocity Vector Imaging(VVI)はスペックルトラッキング法により心臓の局所壁運動の方向と速度を多点同時にベクトル表示する手法であり,壁運動評価をより客観的に行うことを可能にするが,観察対象に制限されることなく使用が可能である.そこで我々は本法を肝臓の動きの評価に応用し,複雑な肝の動きを客観的に評価しようと試みた.
【対象と方法】
1.使用装置:持田シーメンスメディカルシステム社製 アキュソン・セコイアおよびVVI
2.症例:正常14例,脂肪肝7例,慢性肝疾患5例の計26例
3.観察断面と部位:a)心窩部縦走査による肝左葉の縦断像,b)心窩部横走査による肝左葉の横断像,c)心窩部横走査による肝右葉の横断像,d)右肋間走査による肝右葉の縦断像
4.観察方法:a)Bモードによる通常の観察終了後,上記観察断面を描出.呼気と吸気を適宜コントロールしながら,観察断面における肝の動きを6秒間(または3秒間)装置内臓のハードディスクに記録.検査終了後,ハードディスクに記録した画像を再生しVVIにて肝の動きを評価した.b)VVIでは肝辺縁を用手的にトレースしながら観察点を複数箇所設定し,観察点の移動方向と大きさをベクトルとして表示し評価した.c)さらに上記ベクトルの向かう方向が最も多い方向の肝内に参照点を設定し,各観察点の速度の経時的変化をグラフにて観察した.
【結果】
1.呼吸変化に伴い,肝辺縁のa)平行移動,b)辺縁に沿った回転様の移動,c)変形が観察された.
2.心拍動に伴い肝辺縁にはa)主として肝表面に垂直な方向への変形,b)主として肝表面に垂直な方向への変形(回転),c)部位ごとの動きのタイミングが揃わない不規則な変形が観察された.
3.VVIでは,呼吸変化に伴う肝の移動の観察はごく短時間のみ,心拍動に伴う肝辺縁の変形は観察期間の大部分で観察が可能であった.
4.心拍動に伴う個々の観察点の移動は,全例でプラス方向とマイナス方向への変位を繰り返すほぼ周期的な変化を示し,1)プラス方向からマイナス方向へ向かう際に速度0付近で一旦プラトーを形成するプラトー形成型と,2)形成しないプラトー非形成型,に大別された.
5.症例別ではa)慢性肝疾患は全例プラトー形成型を示し,b)正常例および脂肪肝ではプラトー非形成型が優位で,c)プラトー形成型ではプラトーのプラス方向への偏移がみられた.
【考察】
今回の検討では,有効な観察が得られる条件に大きな制限が見られたものの,きわめて複雑な肝の動きを従来よりもはるかに客観的に示すことが可能であった.また,装置の導入から日が浅いこともあって症例数が十分とは言えず,統計学的検討は不可能であったが,速度の経時変化においてはプラトー形成型と非形成型の存在や,プラトーの位置の偏移など,何らかの意義を持つ可能性のある所見が得られた点,またそれが各疾患群である一定の傾向をもつ可能性が示された点できわめて興味深い.基礎的検討も含め今後さらに検討を進めたいと考える.