Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
消化器:消化管3

(S399)

「胃痛」患者に対するUS検査のイミ

The role of US in patient with stomachache

利川 香織, 豊留 幸子, 杉山 育代, 冨田 周介

Kaori TOSHIKAWA, Sachiko TOYODOME, Ikuyo SUGIYAMA, Shuusuke TOMITA

冨田クリニック消化器

Digestive organ department,Tomita clinic

キーワード :

【はじめに】
USはCTと比べて安価・非侵襲的であり,時間的制約はあるものの腹部全域を検査出来る.それ由,「胃の痛み」を主訴に来院した患者に対して,スクリーニング検査としてUSは最も適している.「胃の痛み」を主訴に来院した患者で,病変が胃以外にも多々あるのは周知の事実である.胃病変のうちUSはAGMLなど一部の疾患は描出できるが,胃内視鏡の診断能力に比べると著しく劣る.その場合USを行う目的は,胃以外の病変を確実に拾い上げる事である.今回その成果について検討した.
【対象】
2006年1月から2008年12月までの三年間に「胃の痛み」を主訴に来院され,初診時にUSを受けた875症例.
【方法】
装置はALOKA SSD-5000,TOSHIBA Exalioであり,探触子は3.5MHz,3.75MHz,8.0MHzを用いた.最終診断は手術を受けたもの以外は臨床診断にもとづく.
【結果および考察】
胃・十二指腸に何らかの異常所見が認められたものは最も多く241例(27.5%)であり,その内訳は蠕動低下175例(20.0%),胃壁肥厚56例(6.4%),十二指腸壁肥厚10例(1.1%)であった.このうち胃壁肥厚が認められたもの全例に胃内視鏡検査が行われた.その結果はAGML 9例,胃アニサキス症3例,その他は胃潰瘍,びらん性胃炎,急性胃炎などであった.蠕動低下は175例と高率に描出されたが,この蠕動異常が胃のどのような疾患に相応するのか現在のところ不明である.次に多いのは急性腸炎110例(12.6%)であった.その内訳は小腸拡張101例(11.5%),大腸壁肥厚9例(1.0%)であった.小腸の拡張および蠕動異常はノロウイルスまたはロタウイルスによる急性ウイルス性腸炎と考えられた.大腸壁肥厚例は便培養検査を併せて行った.その結果,陽性のものでは大多数にCampylobacter jejuniが検出された.胆石症は思いのほか少なく19例(2.2%)であった.その内訳は胆のう内結石17例(1.9%),総胆管結石2例(0.2%)であった.婦人疾患に関したものでは,子宮筋腫が6例(0.7%)であった.この場合筋腫はいずれも10cmを超えるものであった.虫垂炎は4例(0.5%)でいずれも発症初期のものであり,まだ患者が右下腹部痛の自覚を有していないものであった.この内2例はMcBurneyの圧痛をも触知せず,USが無ければ診断しえないものであった.また妊娠が4例(0.5%)に認められた.その他偶然に発見されたものとしては,卵巣嚢腫2例(0.2%),脾動脈瘤1例(0.1%),胆嚢癌1例(0.1%),横行結腸癌1例(0.1%)であった.以上より今回の検討を通じ,自覚症状に対応した胃および胃周辺だけでなく,他の疾患が推測される部位にまでUSを施行する事が重要であると考えられた.特にノロウイルスを中心とするウイルス性腸炎は胃痛を主訴として下痢を伴わない場合も多く,その診断は重要である.虫垂炎においては,発病初期における関連痛である心窩部痛を念頭におき,虫垂の描出を行う事が肝要である.若年女性においては,妊娠も念頭におき検査する事が重要であると考えられた.
【結語】
胃の痛みを訴え来院する患者には,USで胃および胃周辺のみならず,腹部全域を広く見ていく重要性を再認識した.