Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
消化器:肝腫瘍

(S360)

門脈血行動態異常に伴う良性肝腫瘤性病変についての検討

Benign Liver Tumors Associated with Portal Flow Disturbance

紺野 啓1, 鯉渕 晴美1, 桃谷 孝之2, 四元 茂2, 谷口 信行1

Kei KONNO1, Harumi KOIBUCHI1, Takayuki MOMOYA2, Shigeru YOTSUMOTO2, Nobuyuki TANIGUCHI1

1自治医科大学臨床検査医学, 2自治医科大学小児科学

1Department of Clinical Laboratory Medicine,Jichi Medical University, 2Department of Pediatrics,Jichi Medical University

キーワード :

【はじめに】
門脈血行動態異常例には稀だが,過形成と考えられる良性の腫瘤性病変が合併することがある.これらは報告例が少ないため,不明な部分も多く診断も難しいが,我々はこうした疾患概念に属すると考えられる症例を2例経験したので報告する.
【症例1】
29歳,男性.4歳時より脾腫を指摘.8歳時脾機能亢進症の精査にてCTPVと食道静脈瘤を指摘され,脾摘除術,上腸間膜静脈−下大静脈短絡形成術を施行されている.その後は不定期にUSにて経過観察していた.CTPVは肝内門脈域全体におよんでいたが,内部の血流はいずれも求肝性で,上腸間膜静脈内の血流も求肝性であった.29歳時USで肝内S3,5,6,7,8に5cm大までの類円形〜不整形の多数の腫瘤性病変を認めた.多くは境界明瞭で,一部不明瞭,内部エコーは低エコー,高エコーなど様々であった.CTPV内の血流はCDの検出感度以下,上腸間膜静脈内の血流は遠肝性であった.CTでは腫瘤の1個が等濃度腫瘤として描出され,造影CT平衡相で低吸収を呈するのみであった.MRIではS3,4,6,7にT1 高信号, T2やや高信号を示す腫瘤性病変を認めた.画像診断では診断に至らず,肝生検を施行した.組織学的に明らかな新生物はなく,グリソン鞘の線維化,門脈の萎縮と中心静脈の拡張などを認め,血行動態異常を反映する所見と考えられた.
【症例2】
6歳,男児.胸部単純X線写真上のCTR増大の精査を目的に腹部USを施行した.肝内に門脈左枝水平部から下大静脈に向かう異常血管を認めた.肝内門脈は索状で内腔の同定が困難であり,CDおよびPD上血流が同定できなかった.周囲には肝動脈の増生を認めた.S4に27mmの辺縁低,中心部高エコーの境界やや不明瞭な類円形の腫瘤性病変と,S5に13mmの同様性状の腫瘤性病変を認めた.CD上いずれの腫瘤にも明らかな血流を認めなかった.以上の所見より静脈管開存症にともなう先天性門脈体循環短絡と門脈低形成,肝内血行動態異常に伴う腫瘤性病変と考えた.小児で検査に制約があり,無症状で悪性所見を認めない点を考慮し,USにて経過観察する方針となった.初診より1年後のUSでは腫瘤はわずかに増大し(S4 35mm,S5 14mm ),S2 (35mm), S7(17mm)に不整形の高エコー腫瘤の出現を認めた.逆にS5の腫瘤は不明瞭化した.その後も経過観察中だが,著変を認めていない.
【考察】
肝内血行動態異常例には稀だが,種々の良性の腫瘤性病変が合併することが知られる.LRN,nodular lesions associated with IPH,NRH,PNT,HAlike hyperplastic nodulesなど種々の呼称による報告がある.基本的には過形成と考えられているが,疾患概念・分類については未だ十分なコンセンサスは得られていない.成因は未確立だが,肝内の血管奇形と門脈血行動態異常に伴う門脈-動脈血流バランスの不均衡に成因を求める説が近年では支配的である.報告は病理学的所見に基づくものが主で,画像所見,特にUS所見については報告がほとんどなく診断は難しい.自験例2例は上記疾患に属すると考えられるが,いずれも肝内門脈血流の著明な減少が特徴的であり,本疾患群の成因を考える上でも非常に興味深い.画像および病理所見,その他の記載との比較から,自験例は上記のいずれとしても当てはまらないため,現時点での診断は除外診断的にLRNとせざるを得ない.症例の蓄積による疾患概念,分類についてのコンセンサスが待たれる.