Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
循環器:その他1

(S353)

慢性腎臓病における心筋内小動脈血流異常について:経胸壁心エコードプラ法による検討

Transthoracic Doppler Echocardiographic Assessment of Intramyocardial Small Artery in Patients with Chronic Kidney Disease

土井 泰治1, 岡田 健一郎1, 海邉 正治1, 東口 将佳1, 林 亨1, 有馬 健2, 高松 祐介2, 鶴永 知万3, 増山 理4

Yasuji DOI1, Ken-ichirou OKADA1, Shouji KAIBE1, Masayoshi HIGASHIGUCHI1, Tohru HAYASHI1, Ken ARIMA2, Yusuke TAKAMATSU2, Tomokazu TSURUNAGA3, Tohru MASUYAMA4

1大阪府済生会千里病院循環器内科, 2大阪府済生会千里病院中央検査部, 3市立柏原病院検査室, 4兵庫医科大学循環器内科

1Division of Cardiology, Osaka Saiseikai Senri Hospital, 2Department of Clinical Laboratory, Osaka Saiseikai Senri Hospital, 3Department of Clinical Laboratory, Kashiwara General Hospital, 4Department of Internal Medicine, Cardiovascular Division, Hyogo College of Medicine

キーワード :

【目的】
表在冠動脈の非侵襲評価はマルチスライスCTの進歩により可能となってきたが,心筋内に穿通する小動脈の評価はいまだ十分でない.拡張不全の基礎疾患となる高血圧性肥大心などでは剖検例において心筋内小動脈の狭小化を高頻度に認めるほか,ダールラット拡張不全心モデルにおいてもその病態早期より心筋内小動脈壁肥厚と心筋内小動脈周囲の線維化が認められる.このように心筋内小動脈の異常は病態と密接に関連しており,かかる異常を早期より検出し治療することは重要である.近年,慢性腎臓病(CKD)が予後と密接に関連することが明らかとなったが,心筋内小動脈の異常との関連については明らかではない.今回,我々はCKDにおける心筋内小動脈の異常とその意義につき検討した.
【方法および結果】
ルーチンの心エコー図検査にて明らかな異常を認めず,日本腎臓学会によるCKD診療ガイドにより推算糸球体濾過量(eGFR)30-89ml/min/1.73m2と軽度ないし中等度にeGFRの低下した114例を対象とした.平均年齢は70±12才,男性58例,女性56例である.Philips社製HDI5000を使用し,通常の経胸壁心エコー図検査終了後高周波探触子を用いてカラードプラ法にて心尖部ないし傍胸骨左縁アプローチにより心筋内小動脈血流を描出した後パルスドプラ法にて血流速波形を記録した.健常例における心筋内小動脈拡張期ピーク血流速は平均20±6cm/sであり,心筋内小動脈局所に内腔狭小化を示唆するacceleration flowを有し,かつ,健常例の平均+2SD(32cm/s)以上の血流速を有する例を心筋内小動脈血流異常例とした.心筋内小動脈血流異常は対象とした114例中29例(25%)に検出された.かかる心筋内小動脈血流異常はeGFR60-89ml/min/1.73m2と軽度eGFR低下14例中1例(7%)であったのに対し,eGFR30-59ml/min/1.73m2と中等度eGFR低下100例のうち,eGFR50-59ml/min/1.73m2の33例においては5例(15%)であったが,特に腎臓専門医の加療が推奨されるeGFR50ml/min/1.73m2未満の67例では23例(34%)と高率であった(p<0.05).心筋内小動脈血流異常例では心筋内小動脈に血流異常のない例に比し血中BNP濃度は有意に高値であり(p<0.05),拡張不全との関連が示唆された.また,心筋内小動脈血流異常例では心筋内小動脈血流異常のない例に比し脳血管障害既往例も高頻度であった(p<0.05).
【総括】
心筋内小動脈血流異常はeGFR50ml/min/1.73m2未満のCKDにおいて高率に認められた.心筋内小動脈血流異常の存在は血中BNP濃度の上昇や脳血管障害の既往と関連しており,かかる病態との関連が示唆される.心筋内小動脈血流異常はeGFRの低下が比較的軽度の例にも認められ,経胸壁心エコードプラ法による心筋内小動脈血流異常の検出はCKDにおける早期よりの病態異常把握および治療の一助となると期待される.