Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
循環器:血管(静脈)

(S328)

下肢静脈血栓スクリーニング検査で発見されたベーカー嚢胞破裂の2症例

Two Cases of Baker’s Cyst Rupture Presenting as Deep Venus Thrombosis

西尾 進1, 山田 博胤2, 楠瀬 賢也2, 平岡 葉月3, 佐藤 光代3, 多田津 陽子2, 冨田 紀子2, 添木 武2, 赤池 雅史2, 佐田 政隆2

Susumu NISHIO1, Hirotsugu YAMADA2, Kenya KUSUNOSE2, Hazuki HIRAOKA3, Mitsuyo SATO3, Yoko TADATSU2, Noriko TOMITA2, Takeshi SOEKI2, Masashi AKAIKE2, Masataka SATA2

1徳島大学病院超音波センター, 2徳島大学病院循環器内科, 3徳島大学病院診療支援部

1Ultrasound Examination Center, Tokushima University Hospital, 2Department of Cardiovascular Medicine, Tokushima University Hospital, 3Clinical Labo, Tokushima University Hospital

キーワード :

【はじめに】
深部静脈血栓症の診断に超音波検査が普及し,当院においても下肢静脈エコー検査の件数が増加している.我々は,痛みを伴う片側性の下腿腫脹を主訴に来院し,血栓性静脈炎が疑われて超音波検査を施行したところ,ベーカー嚢胞の破裂と診断された2症例を経験したので報告する.
【症例1】
43歳,男性.生来健康であった.1年前より右膝の半月板損傷で,近医(整形外科)に通院中であった.今回12月上旬に突然の下腿の疼痛及び腫脹が出現し,血栓性静脈炎が疑われたため,当院心臓血管外科へ紹介された.下肢静脈エコー検査で膝下部から下腿にかけて皮下組織と腓腹筋筋膜間に限局性の液体貯留を認め(図A),ベーカー嚢胞の破裂を疑った.下肢静脈に血栓は認めなかった.CT検査により,診断を確定した.
【症例2】
82歳,男性.前立腺癌にて当院泌尿器科で加療中であった.今回12月下旬に左下腿の疼痛を伴う腫脹が出現し,リンパ浮腫あるいは血栓性静脈炎が疑われ心臓血管外科へ紹介された.下肢静脈エコー検査で,症例1とほぼ同様の所見を認め(図B),ベーカー嚢胞の破裂と診断した.
【考察】
ベーカー嚢胞は,一般的には関節炎や軟骨裂傷などの膝関節の障害が原因で発症する.これらの疾患は関節に過大な液体を産出しベーカー嚢胞が形成される.本症は 55歳から70歳の大人や4歳から7歳の子供に多く発症し,ひざ関節になんらかの障害を持つ人の5人に1人の割合でみられるとされている.滑液の量が急速に増加し,嚢胞が圧迫されると破裂することがある.破裂によって漏れ出た関節液により組織が炎症を起こし,血栓性静脈炎に類似した症状を引き起こす.腓腹筋内側頭と半膜様筋腱との間にある滑液包との交通を有するものが多く,このつながりを観察することが診断のポイントとなる.観察今回経験した2症例は,いずれも血栓性静脈炎が疑われて施行された下肢静脈エコー検査により,ベーカー嚢胞の破裂が診断できた.
【結語】
下腿腫脹の原因としてベーカー嚢胞の破裂があり,血栓性静脈炎との鑑別には超音波検査が有用である.