Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
基礎:弾性計測

(S316)

摘出乳腺組織における弾性特性計測の高精度化

High-precision measurement for excised breast tissue elasticity

藤原 洋子1, 松村 剛1, 梅本 剛2, 3, 山川 誠4, 三竹 毅1, 椎名 毅5, 植野 映3

Yoko FUJIHARA1, Takeshi MATSUMURA1, Takeshi UMEMOTO2, 3, Makoto YAMAKAWA4, Tsuyoshi MITAKE1, Tsuyoshi SHIINA5, Ei UENO3

1株式会社日立メディコUSシステム本部開発設計部, 2筑波メディカルセンター病院乳腺科, 3筑波大学付属病院乳腺甲状腺内分泌外科, 4京都大学大学院工学研究科, 5京都大学医学研究科

1Development Design Dept. Ultrasound Systems Division,Hitachi Medical Corporation, 2Department of Breast,Medical Center Hospital, 3Department of Breast-Thyroid-Endocrine Surgery,Institute of Clinical Medicine,University of Tsukuba, 4Graduate School of Engineering,University of Kyoto, 5Graduate School of Medicine,University of Kyoto

キーワード :

【背景】
組織の硬さの違いを歪み像として表示するエラストグラフィは,乳腺をはじめとして様々な臓器で応用され,その有用性が報告されてきている.一方,我々は摘出した乳腺組織の弾性特性を直接計測することにより,エラストグラフィの結果との対比を進めている.人組織の弾性特性計測においては,様々な物質で見られるように温度依存性があることが懸念され,実際,Samaniら(参考文献)は生理食塩水に標本を浸し,37℃付近に温め計測をおこなっている(弾性特性の温度依存についての報告はない).我々はまず予備実験として,5℃,22℃,40℃に冷却/加熱したブタ脂肪の弾性特性を計測した.計測は万能材料試験機(インストロン社3342型)を使用した.ブタ脂肪には温度依存性があり,5℃と40℃におけるヤング率は約4倍異なることが示された(0%〜5%の圧縮歪み範囲).この結果から,摘出した人組織の弾性特性計測では生体温に近似させなければならないことが示唆された.
【目的】
摘出乳腺組織の弾性計測における標本の温度変化の評価,及び,一定温度下での計測を実現するための方法の検討.
【方法】
(方法1)筑波大学附属病院において,術前に説明を行い,患者様より病理標本を臨床研究に使用する同意を取得した後に,摘出乳腺組織の病変部を約5mm幅にスライスし標本を作成した.組織変性による影響を最小限にするため2時間以内に腫瘍,脂肪,乳腺のヤング率を測定した(なお本研究の内容は,筑波大学附属病院の臨床研究審査倫理委員会の承認を得ている).体温付近の温度に保つため,計測前に40℃の生理食塩水に標本を浸し温めた.また,ポンプで温水を循環させる方法によりステージ(計測装置の標本を置く台)を温めた.計測中は振動の影響があるためポンプは停止した.(方法2)標本とステージを加温する上記の方法に加え,万能材料試験機全体を断熱壁で覆った簡易恒温槽を試作した.槽内を35℃付近に保つため,ペルチェ素子を使用したサーモモジュールを実装し,これを温度制御するようにした.
【結果】
(方法1)対象とした35症例において計測は平均約1時間かかり,室温下で標本の温度は計測始めと終わりで平均4.3℃低下した.これはブタ脂肪で換算すると約9%のヤング率の違いに相当する.この温度低下は,室温(平均約27.2℃)の影響で,計測前に温めた標本やステージから熱が逃げるためであり,これを抑制する温度管理が必要であると考えられた.(方法2)試作した簡易恒温槽のサーモモジュールは振動を発生しないため,計測中でも加温可能である.これにより標本の温度低下を抑制して高精度な弾性特性計測を行うことが可能となった.
【参考文献】
Abbas Samani 他Phys.Med.Biol.48(2003)2183-2198