Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
基礎:音響化学

(S312)

相変化ナノ液滴の腫瘍内分布における粒子径の影響

Influence of Particle Size on Tumor Distribution of Phase Change Nano Droplet

浅見 玲衣1, 東 隆1, KHALIL Waleed1, 佐々木 一昭2, 川畑 健一1, 梅村 晋一郎3

Rei ASAMI1, Takashi AZUMA1, Waleed KHALIL1, Kazuaki SASAKI2, Ken-ichi KAWABATA1, Shin-ichiro UMEMURA3

1㈱日立製作所中央研究所, 2東京農工大学大学院共生科学技術研究院, 3東北大学電気通信工学科

1Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd., 2Institute of Symbiotic Science and Technology, Tokyo University of Agriculture and Technology, 3Department of Electrical and Communication Engineering, Tohoku University

キーワード :

【はじめに】
今日,癌など重篤な疾患への低侵襲治療手段として,強力集束超音波(HIFU)による加熱凝固治療の研究開発が進み,人体への適用も行なわれている.しかし,超音波の集束のみで組織選択性を得ることから,狙った焦点に必ずしも集束しない,表面火傷が起こるなど副作用の問題があり,広く普及するに至っていない.我々は,マイクロバブル(MB)が存在する組織では加熱凝固治療に必要な超音波強度が約1/10まで低減する[1]ことに着目し,MBを患部のみに存在させて超音波治療を行なう薬剤併用造影・治療システムの開発を行なっている.本システムは,サブミクロンサイズの相変化ナノ液滴に超音波パルスを与えることで液体から気泡へと相変化をさせ,超音波照射部でのみMBを生成することで患部でのMBの局在を実現すると同時に,治療対象部位を造影することで予め確定し,医師が狙った部位でのみ確実に加熱凝固治療を行なうものである.これまでの検討から,腫瘍は肝臓などに比べて比較的不均質な組織であるため,均一にMBを生成するのが難しいという問題点がわかってきた.一般に微粒子の腫瘍内組織到達性は,粒径への依存性があると考えられる.本報告ではこの問題点を解決するために,異なる粒径を有する相変化ナノ液滴の腫瘍内空間分布を観察し,均質なMB生成のための最適な粒子径について検討した.
【方法】
ナノ液滴は,主成分であるパーフルオロペンタン(PFP)を含む液相を,リン脂質を主成分とするシェルで包んだ後高圧乳化処理を行い粒子として得た.アクリルアミドゲル中に既知濃度のPFPを有するナノ液滴を封入して,気泡化に必要な超音波パルス負圧強度を求めた.動物実験では,直径が概ね1cmのColon26移植腫瘍を大腿部に持つ雄性CDF1マウスに造影剤を投与し,投与後5分に超音波パルスを照射し,気泡化が起こる範囲を測定した.
【結果と考察】
PFPに対する添加リン脂質量を変化することにより液滴の平均粒径がそれぞれ200,400,850nmであるナノ液滴を得た.これらの液滴の気泡化に必要な超音波パルスの負圧強度はそれぞれ3,2.4,1MPaであり,液滴の平均粒径が大きいと気泡化に必要な超音波強度は低くなる傾向にあった.マウスに液滴を投与後,超音波診断画像上の腫瘍断面に気泡化用超音波を照射したとき,400nmの群のみで均質な気泡化が見られた.200nmの群では特に体表側では均質な気泡化が見られたが深部ではまばらな気泡化しか見られなかった.800nmの群では腫瘍の辺縁部の血管でのみ気泡化が見られ腫瘍内部では気泡化が観察されなかった.特に200nmは気泡化に必要とされる超音波強度が高いため,減衰の影響を受けやすい深部においては気泡化に十分な超音波強度が得られていない可能性が高い.800nmの群において,気泡化に必要とされる超音波が弱いにも関わらず造影範囲が限られているのは,液滴の腫瘍血管外到達性が低いか,もしくは液滴の血中滞留時間が短いからだと考えられる.
これらの結果から,平均粒径が概ね400nm程度の液滴が,本ナノ液滴を用いた腫瘍の診断・治療に最も適している推察される.本結果の汎用性に関する知見を得るため,今後血流状態の異なる癌種での最適な粒径について検討する予定である.
本研究の一部は医療福祉機器研究開発制度の一環として,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により行なわれたものである.
[1]Umemura, S., et al, IEEE trans. UFFC 52, 1690-1968 (2005)