英文誌(2004-)
一般口演
基礎:エネルギー・治療
(S304)
超音波凝固切開装置の生体作用の検証
Tissue effect verification of an ultrasonically activated scalpel
大屋 優1, 山口 匡2, 林 秀樹2, 蜂屋 弘之3
Masaru OYA1, Tadashi YAMAGUCHI2, Hideki HAYASHI2, Hiroyuki HACHIYA3
1千葉大学大学院融合科学研究科, 2千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター, 3東京工業大学大学院理工学研究科
1Graduate School of Advanced Integration Science, Chiba University, 2Research Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University, 3Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology
キーワード :
【はじめに】
超音波凝固切開装置は,超音波振動を利用して生体軟組織の凝固・切開を同時に行うことが可能な手術器具であり,腹腔鏡手術下などで広く利用されている.しかし,設計上の処置部とは異なる位置の組織に損傷を与えることがあるのではないかと懸念されている.周囲組織の損傷の機序としては,振動部分でのキャビテーションや摩擦熱による効果が指摘されているが,工学的な検討は不十分だと考えられる.
そこで本研究では,実際の装置におけるブレードの振動分布をレーザドプラ振動計で計測するとともに,水中観測において生体組織の損傷につながる可能性のあるキャビテーションの発生状況を確認した.また,赤外線サーモグラフィを用いて作動(アクティベート)時におけるブレード周囲組織の温度分布の計測を行い,生体作用の検証を行った.
【方法】
生体組織に接触するブレード部分における実際の振動状況を知るために,空中において市販の超音波凝固切開装置(駆動周波数 55.5 kHz)を作動させ,スキャニングレーザドプラ振動計(Polytec PVS-400)を用いて振動分布の測定を行った.つぎに,脱気水中で同装置を作動させ,キャビテーション発生の様子をデジタルハイビジョンビデオカメラで撮影した.また,血流のあるブタ腸間膜をブレードで保持した状態で作動させ,赤外線サーモグラフィ(TVS-200)を用いて周囲組織の温度分布の計測を行った.それぞれについて,球形のブレードと組織を保持可能なブレード(高速で振動するアクティブブレード部分とパット部分とで構成)の2種を用いている.
【結果・考察】
球形ブレードにおけるキャビテーション気泡は主に球の鉛直上下方向で発生し,斜め方向に不規則に回転しながら移動していることが観察された.一方で,保持式のブレードでは先端に超音波エネルギーが集中しやすいために,先端方向へ強くキャビテーションが発生した.これらの結果は,各々の振動分布計測結果と一致していると考えられる.また,赤外線サーモグラフィによる計測結果より,アクティベート中のブレード周辺組織の温度上昇の範囲がほぼ一様であることが観察された.
今後,これらの結果を踏まえ,キャビテーションおよび熱発生のそれぞれが独自にまたは相互作用としてブレード周辺組織に及ぼす影響について,より詳細な検証を行う.