Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
基礎:マイクロバブル

(S302)

マイクロバブルを援用した超音波遺伝子導入に関する研究

A Study of Micro-bubble Enhanced Sonoporation

橘 理恵1, 岡本 旭生1, 葭仲 潔2, 高木 周1, 松本 洋一郎1

Rie TACHIBANA1, Akio OKAMOTO1, Kiyoshi YOSHINAKA2, Shu TAKAGI1, Yoichiro MATSUMOTO1

1東京大学工学系研究科機械工学専攻, 2東京大学工学系研究科バイオエンジリアリング専攻

1Department of Mechanical Engineering, School of Engineering, The University of Tokyo, 2Department of Bioengineering, School of Engineering, The University of Tokyo

キーワード :

近年,医療・生化学・生物学等の進歩により,癌や生活習慣病など身近なものも含めた多くの疾患の原因が遺伝子異常によるものであると判明しつつある.それに伴って,これらの疾患の治療法の一つとして,遺伝子治療の必要性が高まっている.そのため通常では困難な細胞への遺伝子導入をいかに行うかが問題となる.現在,ウィルスを用いる方法や,エレクトロポレーション法が確立されているが,副作用や細胞へのダメージといった問題を抱えている.このような中で,低侵襲で目的の部位のみの細胞に遺伝子を導入することができる超音波を用いた遺伝子導入法が期待されている.この手法は,超音波照射によりキャビテーションバブルが発生し,そのバブルが崩壊し,それに伴い発生する局所的な高圧力により,細胞表面に一過性の小さな穴が空き,この小孔を通って遺伝子が導入されると考えられている.さらに,超音波造影剤として臨床的に用いられているマイクロバブルを併用することで,そのマイクロバブルが核となり,導入効率を飛躍的に改善できるという知見が得られている.しかしながら,この導入のメカニズムは詳細には明らかにされていない.
本研究ではマイクロバブルと超音波を用い,超音波照射時の条件を変化させ,いかなる因子が導入効率を高めるのかを明らかにすることを目的とした.用いた細胞はマウス線維芽系細胞で,24wellプレートを用いて培養し,in vitroでの実験を行った.マイクロバブルは造影剤であるSonazoidを培養容液に混和して用いた.超音波は2.00 MHzのバースト波(デューティ比 10 %)を用いた.超音波強度は0 〜 11.0 W/cm2で,照射時間は0〜120 sで行った.細胞内に遺伝子が導入されるためには,細胞膜に小孔が生じることが必要条件である.そのため,まず,細胞膜の透過性がない核染色剤(Propidium iodide)を用いることで超音波照射による細胞膜の小孔形成率の確認を行った.細胞膜に穴が開いた場合のみ細胞の核が染色されるため,フローサイトメトリーにより細胞膜に穴が開いた細胞の個数をカウントすることが可能である.また,この際の低侵襲性の確認のため,試薬(Cell Counting Kit 8)を用いて吸光度測定を行い,吸光度と細胞の生存率が線形関係にあることから生存率測定も行った.更に,実際にGFPプラスミドを用いることで遺伝子導入率を測定した.GFPプラスミドが細胞に導入されると蛍光たんぱく質が発現し,細胞が緑色光に励起するため,導入された細胞を判別することができる.
測定結果より,超音波強度が大きいほど,また照射時間が長いほど,超音波照射下において生き残った細胞中への導入率が大きくなるということが示された.また,遺伝子導入率よりも細胞小孔率が高いことが示された.これより,マイクロバブルと超音波照射により小孔は生成されるが,遺伝子が細胞内へ導入される確立が低いことが示唆される.細胞内に遺伝子が取り込まれない原因として,生じた小孔が遺伝子に対して小さいため,あるいは細胞膜と遺伝子との電気的反発のためとも考えられ,今後,その原因を明らかにすることが課題である.