Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

一般口演
基礎:プローブ

(S296)

超音波探触子が細菌を伝搬する危険性について

Risk of Bacterial Transmission by Ultrasound Probes and Useful of Disinfection by Alcoholic paper

鯉渕 晴美1, 林 俊治2, 藤井 康友1, 紺野 啓1, 尾本 きよか1, 谷口 信行1

Harumi KOIBUCHI1, Shunji HAYASHI2, Yasutomo FUJII1, Kei KONNO1, Kiyoka OMOTO1, Nobuyuki TANIGUCHI1

1自治医科大学臨床検査医学, 2自治医科大学感染・免疫学講座細菌学部門

1Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University, 2Department of Infection & Immunity, JIchi Medical University

キーワード :

目的 昨今様々な医療器具や医療者の手指を介して細菌を伝搬しそれが院内感染を引き起こしていることがわかっている.アメリカの疾病予防管理センターは医療器具の消毒滅菌の分類勧告し,これが医療器具の消毒滅菌のスタンダードとなっている.超音波探触子はこの勧告の中には記載されていないが,通常「損傷のない皮膚と接触するもの」であるため,聴診器などと同様アルコールなどでの低水準消毒が必要であると考えられる.しかし,検査終了時にはせいぜい探触子に付着したゲルを拭き取るのみで,探触子の劣化を早めるおそれがあるためアルコール綿での消毒は行われていないのが現状である.本研究では超音波探触子の汚染状況を調査し,細菌が超音波検査によって伝搬するか,更に検査終了後の最適な処置方法を検討した.
方法1.in vitro
滅菌した牛革の上に菌液と滅菌ゲルをのせて,その上でセクタ型超音波探触子を用いて超音波検査のシミュレーションを行った.その後探触子を全く無処置の群,紙で拭き取った群,アルコール綿で拭き取った群にわけ,探触子を培地に直接スタンプする方法にて探触子の汚染状況を調査した.更に実際に探触子を介して細菌が伝搬するか検討した.先ほどと同様,牛革の上に菌液とゲルをのせ,その上をセクタ型探触子で超音波検査のシミュレーションを行い,その探触子を上記の3つの群にわけ各々を別の滅菌牛革の上で超音波探触子のシミュレーションを行った.その牛革の上,5カ所に表面が盛り上がった血液寒天培地を押し当てて,この牛革がどれほど汚染されているか,すなわち細菌がどれくらい牛革へ伝搬しているかを調査した.
2. in vivo
健常成人の頸部腹部に滅菌ゲルをのせてセクタ型探触子で超音波検査を10分間行った.その後先ほどと同様に探触子を3つの群にわけて,探触子の汚染状況を調査した.更に実際に探触子を介して細菌が伝搬するかをさきほどと同様の方法で検討した.
結果1.in vitro
無処置群の探触子からは無数の細菌が検出され,紙で拭き取った群ではかなり少なくなるが,アルコール綿で拭き取った群では菌数は0になった.伝搬実験では無処置群ではかなりの菌数が伝搬していたが,紙で拭き取った群では,伝搬する菌数はかなり減少し,アルコール綿で拭き取った群では伝搬は0となった.
2. in vivo
健常成人の頸部腹部を検査した探触子から検出された細菌は表皮ブドウ球菌を代表としたCoagulase-negative staphylococcusが最も多く,Corynebacterium.spp,Bacillus subtilis.,Staphylococcus aureusと続いた.S.aureusにはMRSAも含まれていた.無処置群の探触子からは無数の菌数が検出され,紙で拭き取った群でも数は少なくなるがかなりの菌数が検出され,アルコール綿で拭き取った群はほぼ0となった.伝搬実験では紙で拭き取った群は無処置群より有意に伝搬した菌数が少なく,さらに有意差はなかったが紙で拭き取った群よりアルコール綿で拭き取った群のほうが伝搬した菌数が少ない傾向にあった.
考察 超音波検査によって探触子は主に皮膚常在菌によって汚染されるが,それは紙でゲルを拭き取るのみでもかなりの汚染伝搬を防ぐことができる.従って健常人の間での探触子の処置は紙で拭き取るのみでも十分であるが,院内感染上問題となる菌を保有している患者,皮膚に病巣のある患者の後や,免疫不全患者の前にはアルコール綿で消毒されるべきであると考えた.