Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

奨励賞演題
循環器

(S282)

孤立性左室心筋緻密化障害成人例

Isolated noncompaction of the left ventricular myocardium on adults

安田 英明1, 今村 啓史1, 後藤 孝司1, 橋ノ口 由美子1, 川地 俊明1, 坪井 英之2, 曽根 孝仁2

Hideaki YASUDA1, Keishi IMAMURA1, Takashi GOTO1, Yumiko HASHINOKUCHI1, Toshiaki KAWACHI1, Hideyuki TSUBOI2, Takahito SONE2

1大垣市民病院診療検査科形態診断室, 2大垣市民病院循環器科

1Ogaki Municipal Hospital, Department of Clinical Reserch, 2Ogaki Municipal Hospital, Department of Cardiology

キーワード :

【はじめに】
 左室心筋緻密化障害とは,胎児心筋が緻密化していく過程が障害され,スポンジ状の胎児心筋が残存する病態である.左心室の過剰な網目状の肉柱形成と深い間隙を形態的特徴とし,WHOでunclassified cardiomyopathyのひとつに分類される予後不良な稀な疾患とされてきた.しかし,近年疾患概念の普及と超音波診断装置の画質向上により,成人での発見も増えてきており,それほど稀ではないことがわかってきた.当院においても28ケ月間に成人例だけで24例経験したので,その特徴を心エコー図所見を中心に検討した.
【対象及び方法】
対象は,2006年7月から2008年10月の28ヶ月間で,当院初診あるいは経過観察中に心エコー検査にて左室心筋緻密化障害の診断に至った24例(男:女=18:6)である.発見時年齢は26〜86歳(平均57.8±19.1歳).左室心筋緻密化障害の診断は,肉柱形成が心室壁の1 segment 以上に存在し,ChinらのX-to-Y ratioで0.4未満となる肉柱が1本でも認めたものとした.
【検討項目】
1)発見の契機
2)壁運動異常の有無
3)左室拡張末期径
4)左室駆出率
5)緻密化層と肉柱との比
6)血栓,血栓症の有無
7)BNP値
【結果】
1)発見の契機は心不全としての検査が11例.拡張型心筋症(DCM)として経過観察中あるいは,紹介例が7例.陳急性心筋梗塞(OMI)の経過観察中が2例.透析患者が2例.心電図異常の精査が2例であった.
2)壁運動は23例が彌慢性に低下していた.OMI症例においても,梗塞部位が同定出来ないほど彌慢性に低下していた.1例はほぼ正常であった.
3)左室拡張末期径は49〜88mm,平均65.1±9.4mmと拡大していた.
4)左室駆出率は15〜53%,平均32.5±9.1%と低下していた.
5)肉中の高さに対する緻密化層の比は0.23〜0.38,平均0.316±0.041であった.
6)左室内血栓および血栓症は,5例に認めた.
  左室内血栓:1例 脳梗塞:4例
7) BNPは166.3〜4146,平均1037.05±946.53とかなり上昇していた.
【考察】
 左室心筋緻密化障害は,1995年にWHO/ISFCによりunclassified cardiomyopathyとして分類された心筋の構築異常を伴う特徴のある先天性の心筋疾患であり,胎生期の心臓がnoncompactionをきたした結果,左室の拡大,収縮不全が生じる疾患である.今回経験した24例においても,23例で,びまん性の壁運動低下,左室の拡大および収縮不全を来たしていた.
本症は,稀な疾患とされながらも,疾患概念の普及および,超音波診断装置の画質向上により,報告例が急増している.当初成人での発見率は0.014%と極めて稀とされていたが,これは見過ごされていた例が少なからず存在すると考える.実際に今回我々の検討例でも,DCM,あるいはOMIの経過観察中に気づいた例が5例も存在した.見過ごされていた原因としては,疾患概念が無かったこと,心尖部まで十分に観察されていなかったこと,超音波装置によっては,画像が不明瞭だったことが考えられる.したがって,今後は成人においても発見率が上がると推測される.
また,本症は,遺伝疾患であることも報告されており,発見した際には,積極的に家族の検索も勧めるべきである.
【結語】
孤立性左室心筋緻密化障害の成人24例の症例を検討した.