Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

奨励賞演題
基礎

(S281)

血流依存性の血管弛緩反応による橈骨動脈壁粘弾性特性変化の超音波計測

Ultrasonic Measurement of Transient Change in Viscoelasticity of the Radial Arterial Wall due to Flow-Mediated Dilation

池下 和樹1, 長谷川 英之1, 2, 金井 浩1, 2

Kazuki IKESHITA1, Hideyuki HASEGAWA1, 2, Hiroshi KANAI1, 2

1東北大学大学院工学研究科電子工学専攻, 2東北大学大学院医工学研究科医工学専攻

1Department of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University, 2Department of Biomedical Engineering, Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University

キーワード :

【目的】
循環器系疾患の主因である動脈硬化症は,血管の内側(内皮)から進行するとされている[1].さらにその初期段階では,血管中膜を構成している平滑筋細胞タイプが変化することも報告されている[2].ゆえに,動脈硬化症の早期診断のためには,血管最内層を覆う一層の内皮細胞の機能や,血管壁に粘弾性効果を与えている平滑筋の力学的特性の計測・評価が重要となる.しかし,従来の評価法では,内皮反応による血管径の変化を計測しているだけであり,壁の機械的特性は評価できない.本報告では橈骨動脈において,一心拍中の血圧変化(応力)と,拍動に伴う血管壁内中膜領域のみの微小な厚み変化(ひずみ)を計測し,内皮反応時における血管壁応力−ひずみ特性の変化を非侵襲的に計測する.また,得られた応力−ひずみ特性から最小二乗法を用いて粘弾性パラメータを推定し,その経時的変化を評価する.
【対象と方法】
平滑筋は主に血管中膜を構成し,血管壁に粘弾性特性を与える.位相差トラッキング法によって計測された1心拍内の微小な内中膜領域厚み変化波形と,トノメトリ血圧計によって連続計測された血圧波形から,内中膜領域の応力−ひずみ特性を得ることができる[3].血管壁内中膜の粘弾性モデルとしてVoigtモデルを仮定することによって,最小二乗法を用いて非侵襲的に粘弾性モデルのパラメータを推定することができる.
【結果と考察】
図(a)に示した橈骨動脈壁血圧(応力)—厚み変化(ひずみ)特性は,ヒステリシスループを描くことが分かる.ループの傾きは弾性率と対応し,駆血解除後の傾きの一時的な減少は壁の一時的な弛緩に対応する.図(b)に,得られた応力—ひずみ特性から推定された粘弾性パラメータの,超音波ビーム5本分の平均値と標準偏差の時間推移を示す.弾性率の一時的な低下とともに,駆血解除後の粘性率の増加が観察できる.
【結論】
本計測法は,内皮反応時の動脈壁粘弾性特性変化の挙動のより詳細な計測を可能とし,内皮機能の評価に加え,動脈硬化症によって生じる平滑筋の特性変化の検出なども期待できる.
[1] R. Ross, New Engl. J. Med., 340, 115-126, 1996.
[2] 松沢佑次, Jpn. J. Clin. Med., 51, 1951-1953, 1993.
[3] K. Ikeshita, et al., Jpn. J. Appl. Phys., 47, 4165, 2008.