Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

ワークショップ
ワークショップ1
超高周波超音波診断(超音波生体顕微鏡)の眼科領域における応用

(S248)

超音波生体顕微鏡(UBM)による前眼部所見の定量的評価

Quantitative evaluation of anterior segment of the eye using ultrasound biomicroscopy

広瀬 文隆

Fumitaka HIROSE

神戸市立医療センター中央市民病院眼科

Ophthalmology, Kobe City Medical Center General Hospital

キーワード :

 高周波の振動子を用いることで高解像度な生体断面画像の取得が可能となった超音波生体顕微鏡(ultrasound biomicroscopy ; 以下UBM)の登場は,眼科領域の診療に大きなインパクトを与えた.この技術の導入により,これまで診察医の主観により定性的評価が行われていた眼科診療の様々な局面において,客観的かつ定量的評価が確立され,特に前眼部の診療が洗練された現代的スタイルへと発展を遂げた.
 このUBMが最も有用であるフィールドとして緑内障が挙げられる.緑内障は,眼房水の流出路が存在する前房隅角の形状により,開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障の二つの病型に大別される.どちらの病型であるかによって治療方針が全く異なり,特に閉塞隅角緑内障の診療において隅角所見は非常に重要である.しかしながら,従来の隅角の評価は細隙灯顕微鏡検査や隅角鏡検査による定性的な評価が中心で,精密な定量が困難であったために主観の入るあいまいな部分が否めず,再現性にも問題があった.UBMの実用化により,光学的観察が困難な部分を含めて隅角とその周囲の組織の詳細な断面像が記録できるようになり,画像の計測によるバイオメトリーが可能になった.
 UBMによる前眼部撮影の開発に併せて,隅角所見の距離や角度など様々な生体計測のためのパラメータが提唱され,これらを用いた隅角の定量的な評価に関するUBMの臨床研究が,数多く報告されている.例えば,従来から,閉塞隅角緑内障に対して白内障手術を行うと隅角が広がり前房が深くなることが経験的に知られていたが,UBMの導入により隅角開大のバイオメトリーが可能になり,この隅角の変化が統計学的に有意なものであり閉塞隅角緑内障の治療手段として有効であることが定量的に示された.また,閉塞隅角緑内障には一般には瞳孔ブロックと呼ばれる機序が関与していると考えられているが,従来は診察医により漠然とその有無が指摘されるのみであった.しかし,UBMを用いて虹彩の前方への弯曲の程度を計測することにより,瞳孔ブロックの定量化が可能になった.
 開放隅角緑内障についても主に緑内障手術後のUBMによる定量的評価の有用性が報告されている.濾過手術後の濾過胞の性状,厚みや,強膜内のスペースは術後管理に重要であるが,光学的には観察困難であるため従来は漠然とした主観的評価しかできなかった.しかしUBMを用いれば精細な超音波断面像を描出することができ,バイオメトリカルな評価が可能になった.緑内障手術後所見の定量的評価にもUBMは非常に有用である.
 このようにUBMを用いた研究により続々と新しい知見が報告されており,特に閉塞隅角の病態の理解,診断及び治療の客観的な評価に大きな進歩をもたらした.本講演では,このような眼科領域でのUBMの臨床研究の成果を提示しながら,UBM所見の定量化の意義について改めて検証する.