英文誌(2004-)
パネルディスカッション
パネルディスカッション11
新しい心機能指標の可能性を探る
(S234)
Post-systolic shortening (PSS)
浅沼 俊彦
Toshihiko ASANUMA
大阪大学大学院医学系研究科機能診断科学講座
Division of Functional Diagnostic Science, Osaka University Graduate School of Medicine
キーワード :
【Post-systolic shortening (PSS)とは】
虚血領域の心筋収縮が,非虚血領域に比べて遅延することは,以前からよく知られていた(tardokinesis).この遅延は主に等容性拡張期にみられるが,負荷心エコー時などにこの短時間の壁運動異常を視覚的に捉えることは難しく,その同定には熟練が必要であった.しかし近年,心筋速度やストレイン・ストレインレートといった局所心筋運動の詳細な解析が可能になり,この時相での異常運動の定量評価が容易に行えるようになった.
この遅延収縮はpost-systolic shortening (PSS),またはpost-systolic thickeningと呼ばれていて,その定義は,大動脈弁閉鎖後に認められる心筋収縮のことである.心臓のポンプ機能から考えた場合,PSSは大動脈弁閉鎖後に生じるため,駆出には関与しない無駄な動きである.その主なメカニズムとして,recoilとactive contractionが挙げられるが,まだ十分解明されていない部分も多い.
【Post-systolic shorteningによる心筋虚血診断】
組織ドプラ法や組織トラッキング法によるストレインなどの局所心筋運動解析からPSSを評価することで,虚血領域を同定することができる.われわれも動物実験から,収縮期の壁厚変化異常が出現しないような軽度な虚血時に,PSSが既に出現していることを確認し,この拡張早期の異常運動の評価が急性虚血の検出に有用であることを報告してきた.臨床研究においても,PSS評価は虚血診断感度を改善することが報告されている.
さらに,PSSは,気絶心筋が生じない短時間の虚血後でも,しばらく持続することから,虚血の既往(虚血メモリー)の診断にも使用できる可能性があると考えられる.
ただし,PSSは虚血に特異的な現象でなく,虚血以外の疾患や一部の健常心筋にも認められる点は注意しなければならない.しかし,急性虚血に極めて鋭敏な指標であることから,今後広く虚血診断に使用されるものと期待される.
【参考文献】
1.Pislaru C, Belohlavek M, Bae RY, et al. Regional Asynchrony during acute myocardial ischemia quantified by ultrasound strain rate imaging. J Am Coll Cardiol 2001;37:1141-8.
2.Voigt JU, Exner B, Schmiedehausen K, et al. Strain-rate imaging during dobutamine stress echocardiography provides objective evidence of inducible ischemia. Circulation 2003;107:2120-6.
3.Okuda K, Asanuma T, Hirano T, et al. Impact of the coronary flow reduction at rest on myocardial perfusion and functional indices derived from myocardial contrast and strain echocardiography. J Am Soc Echocardiogr 2006;19:781-87.