Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション11
新しい心機能指標の可能性を探る

(S234)

左室心筋捻転運動計測の意義と将来

Left ventricular torsion; the significance and future direction

納冨 雄一

Yuichi NOTOMI

葉山ハートセンター心不全内科

Heart failure service, The Hayama heart center

キーワード :

左室メカニクス特に非線形ストレインである捻転運動を,心エコー図法で,より正確にまた容易に,そして客観的に解析したいという熱望が,超音波スペックルトラッキングイメージングを臨床心エコー機器に搭載させ,早3年余りが経った.古くから知られるその左室捻転運動は,当初は実験系の中で,90年代からは患者にTagging法を使ったMRIによって解析され,LVGや断層エコー図による左室体積測定(シルエットによるボリュームストレイン)では得られない,新たな収縮または拡張機能の計測の糸口になる目映い結果が報告されてきたがこれまで遠い存在だった.組織ドップラー法またはスペックルトラッキング法をはじめとする非ドップラー法を用いた心エコー図法による左室捻転運動の測定の実現は,その蓄積したマグマを噴出すがごとく,この3年あまりに50以上の論文を排出させることになった.
LV suctionと左室メカニクスの関係などこれまで知られていない新しい概念の確立があったにしても,大半がすでに知られていることを心エコー図にて行えたという報告が,この3年あまりに出版された論文の大半を占めていても驚くべきでも,落胆すべきでもないだろう.
それは,80年代後半にカラードップラー法が可能となった頃,Observationalな報告から始まったことを思い出すからだ.些細に見えるフローイメージングから,大げさに見えるものまで目の当たりにしたのちに,10年も経たないころその流体力学的意義が明らかになり,カラードップラー法による流量の推定は確立した.大規模な時間のかかる臨床研究を経て,それから20年,現在はほぼすべてのエコー機で可能であろうカラードップラー心腔内血流イメージングを用いて定量化されたかかる部位での流量は日常の心エコーレポートに記載されようとしている.それは再び三次元カラードップラー法が広まるにつれて概念が修飾されてゆくかもしれない.それでも二次元カラードップラー法は残るに違いない.最近を見れば,同期不全のことを思い出されるだろう.90年代後半に治療法として登場した再同期療法において,“機械的”同期不全の評価法として颯爽と現れた組織ドップラー法は5年余りのうちに大規模研究の結果を持って意気消沈してしまった.いまや機械的非同期の意義を再考することになっているのかもしれない.あたかも車輪がくるっと一回転したようかのようだ.
左室の捻転運動は現在もちろん日常の心エコーレポートに書かれるような項目ではない.二次元エコーから求めたそれはもちろん限界を含んでいる.その力学的な説明,生理的な意義も一部しか明らかになっていない.意義が確立して初めて,大規模調査が行われ,臨床に認知されるものとなる.その間に超音波装置も進歩するだろう.治療も変化するだろう.その間,それに追随した研究は続くだろう.大きな車輪は回り始めたばかりのように思える.仮に車輪は一回転して,元の位置に戻ったとしても,その間の研究が,人類の健康に貢献しようとするものならば,無駄ではないだろう.有益な経験を基にすれば,回転する車輪の上の荷台は前に進んでいるはずだ.
本セッションでは限られた時間により,拡張機能についてフォーカスされるだろう.有益な経験を積み重ねるために,どのように考えるべきかこれまでの報告を元に若干の私見を述べるように努めてみたい.