Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション11
新しい心機能指標の可能性を探る

(S233)

ストレインレート

Strain Rate

川合 宏哉

Hiroya KAWAI

神戸大学大学院医学研究科内科学講座循環器内科学分野

Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine

キーワード :

【ストレインおよびストレインレート】
 ストレインとは,組織の変形あるいは歪みを意味し,ストレインレートはその変形率を意味する.心筋を対象としてこれらの指標を用いると,局所心筋の変形,すなわち一心周期における局所心筋の収縮と拡張を評価することが可能となる.近年の心エコー図機器は,その技術進歩により組織ドプラ法あるいは2次元スペックルトラッキング法を用いて局所心筋の速度情報を求め,この速度情報から心筋ストレインおよびストレインレートを自動演算することが可能となった.
 心筋ストレイン・ストレインレートの特徴は,局所の指標であること,心筋そのものの特性を表す指標であること,定量的な指標であること,である.従来の心エコー図指標の多くは心腔の容積・内径や血流速度に基づく指標であり,心臓全体を評価する指標であるとともに,心筋そのものの特性を表す指標ではなかったことを考えると,ストレイン・ストレインレートは新しい特徴を有する指標であるといえる.これらの指標を臨床現場で活用する際に,現在試みられているのは,局所心筋機能の定量的評価と局所心筋の収縮時相による非同期の評価であるが,ストレインレート指標は主に局所心筋機能評価に用いられる.

【ストレインレートの特徴】
 ストレインレート曲線は,拡張末期をゼロとしてその後増加し,収縮中期にピーク値に達したあと低下し,収縮末期に再びゼロとなる.拡張期には収縮期と逆相に向かい,2つのピーク値を持ち,拡張末期にゼロとなる.収縮期最大ストレインレートは局所左室心筋の収縮能指標として用いられ,拡張早期最大ストレインレートは局所左室心筋の弛緩能指標として用いられる.ストレインレート指標はストレイン指標に時間の概念を加えた指標であり,ストレイン指標と比較し負荷条件に影響を受けにくい.特に収縮期最大ストレインレート値は,動物実験により左室Emaxや左室dP/dt maxと相関することが報告されており,局所心筋の収縮性指標と言える.このように収縮期最大ストレインレート値は理論上,ストレイン指標より局所心筋収縮能を鋭敏に表すと考えられるが,再現性に問題があり,臨床応用には計測の安定性という問題を克服する必要がある.

【ストレインレートの臨床応用】
 第一の臨床応用は,局所壁運動の定量化である.従来の壁運動スコアは視覚的評価による定性的指標であったため,より客観的な指標が求められていた.関心領域の収縮期最大ストレインレート値の低下は壁運動異常を表す.局所壁運動の定量化には,収縮期最大ストレインレート値の代わりに最大ストレイン値を用いても同等の評価が可能である.収縮期最大ストレインレート値や最大ストレイン値の左室内分布を左室極座標(ブルズアイ)表示することのできる解析ソフトも臨床応用されている.
 第二の臨床応用は,各種心疾患の早期心筋病変を検出することである.アミロイドーシスやアドリアマイシン心筋障害などの二次性心筋疾患や逆流性弁膜症などにみられる心筋病変を,左室駆出率が低下していない時期において検出できることが報告されている.早期心筋病変を検出する際にはストレイン指標ではなく,局所心筋収縮能を鋭敏に表し負荷条件に影響を受けにくいストレインレート指標を用いて評価すべきものと考えられる.
 さらに,ストレインレート指標を用いて局所心筋の拡張能を評価し得る可能性がある.この臨床的意義は未だ明らかではなく研究段階と言えるが,拡張早期最大ストレインレート値の低下により局所心筋弛緩障害が評価され,左室全体の弛緩障害に先行する指標となり得る可能性が期待される.