Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション10
超音波で加齢を計る

(S230)

超音波組織性状診断による血管の加齢の評価

Aging of arteries evaluated by ultrasonic tissue characterization

西條 芳文

Yoshifumi SAIJO

東北大学大学院医工学研究科・医用イメージング研究分野

Biomedical Imaging Laboratory, Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University

キーワード :

【はじめに】
“A man is as old as his arteries. (人は血管とともに老いる.)”はWilliam Oslerの言葉として有名であり,“動脈硬化=加齢”という概念は長年医学界の常識として語り継がれてきた.しかし,1990年代にRussel Rossが“Response to injury”説を提唱して以来,動脈硬化は血管壁に生じた炎症に対する生体反応のひとつであり,その本質は必ずしも加齢ではないということが実験的に証明されている.ただし,血管がこのような炎症反応に暴露される確率は年数と比例するため,臨床研究では加齢と動脈硬化とは明らかに相関があるので,本発表では主に各種超音波組織性状診断による動脈硬化の評価について報告する.
【方法】
種々の動脈硬化病変を,基礎的手法として超音波顕微鏡,臨床的手法としてパラメトリックIVUS(血管内超音波)により観察した.周波数80〜1300MHzの高周波数超音波をPVDFおよびZnO製のトランスデューサに入力し,2次元機械走査し,薄切しプレート上に載せた摘出血管のCモード像を描出することが超音波顕微鏡の基本的概念である.組織に染色を施さなくても光学顕微鏡と同様の画像が得られること,血管内超音波画像の解釈における基礎的データとなること,音響特性の解析により組織の機械特性が推定できることなどがメリットである.一方,IVUS装置から出力されたRF信号を高速デジタイザカードでワークステーションに取り込み,種々の解析を行うことで,超音波に関する種々のパラメータを算出し,このパラメータをカラー表示することがパラメトリックIVUSの概念で,形態の描出を主眼においた通常のモノクロ表示では得られない情報が得られることがメリットである.これまでに,血管壁の自動検出,Radial方向の組織速度およびストレイン,2次元組織速度ベクトルおよび組織変形,自己組織化マッピング,超音波減衰,石灰化の自動検出,フラクタル次元などのパラメータの表示方法を開発し,さらに,Volcano社により市販されている血管内超音波装置におけるVirtual Histology(VH)と同様の表示も行うことができる.
【結果】
動脈硬化の組織要素を線維化組織,中膜平滑筋,脂肪,石灰化に大別すると,超音波顕微鏡により音速および減衰は石灰化>線維化組織>中膜平滑筋>脂肪であることが示され,これは80〜1300MHzいずれの周波数でも同様であった.1300MHzの超音波を用いた検討では,炎症に晒されたと推定されるコラーゲン線維は一般に動脈硬化の主体をなしている1型コラーゲンに比較して脆くなっていることが示唆された.また,Apo-E欠損マウスおよびβサラセミア発症マウスにおいて,週齢により内膜の肥厚および超音波減衰あるいは音速の上昇が認められ,加齢と組織性状の関連が証明された.血管内超音波法においては,VHにおけるDense calciumは石灰化の自動検出部位と一致し,Fibrofattyの部位は脂肪を多く含み,組織ストレインが大きいことが示された.これらの結果は,超音波顕微鏡データを用いて解釈することで合理的に説明できる.
【結語】
超音波組織性状診断により動脈硬化組織の定量的解析が可能であり,血管の加齢現象は血管壁の肥厚などの形態だけではなく内部の組織性状とも強く関係していることが示された.