Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2009 - Vol.36

Vol.36 No.Supplement

パネルディスカッション
パネルディスカッション8
血流計測法の新展開

(S223)

ARXモデルの超音波ドプラ血流計測への応用

An application of ARX model to the Doppler ultrasound blood-flow measurement

馬場 達朗, 神山 直久

Tatsuro BABA, Naohisa KAMIYAMA

東芝メディカルシステムズ株式会社超音波開発部

Ultrasound System Development Department, Toshiba Medical Systems Corp.

キーワード :

超音波ドプラ診断装置による循環器や腹部の血流診断が定着しているが,ドプラ計測は煩雑な操作が必要でありドプラオートトレースなどの自動血流計測技術が開発されてきた.しかし頸動脈や腹部の血流診断に対して心臓では,血流信号以外に心腔内の弁成分や逆流成分が混入するため現在でも手動計測をおこなっている.今回は左室流出血流と流入血流について,自動的に弁などの外乱成分を除去する自動計測処理を開発した.
左室流出血流については,心電図信号を外部確定入力とした数学モデル(ARXモデル)で,外乱成分混入のない理想的なトレース波形を組合せてシステム同定をおこなった.解析には条件の異なる複数心拍のデータを用い,数学モデルの次数を残差によって最適化し,数学モデルの係数列を出力した.次に実際の装置上で,システム同定で得られた係数列をもとに外乱成分混入のないトレース波形を推定した.推定波形と実際のトレース波形との差をもとに外乱混入箇所(時相)を判別した.外乱を除去し補間生成されたトレース波形をもとに,VTIなどの自動計測をおこなった.
左室流入血流についても同様の数学モデルを用いたが,推定するものは左室流出血流と異なり,心臓の拡張期時相の開始点と終点である.推定された拡張時相をもとに,左室流入血流のE波ピーク,A波ピークを自動検出し,E波ピークからの減衰時間(DcT)を最小自乗推定により自動計測した.
今回開発した自動計測処理を超音波診断装置に試作実装した結果を図に示す.左室流出血流計測では,流出開始と終端の両端で混入する弁成分の影響を受けないオートトレース波形(太実線)が得られ,VTI,PPG,MPG等が自動計測されていることがわかる.左室流入血流計測では,拡張期推定時相をもとにE波ピーク,A波ピーク,DcT計測ライン(各太実線)が自動検出され,EPV,APV,E/A,DcT等が自動計測されていることがわかる.
従来心臓内部の血流計測は,血流以外に弁などの外乱が混入するため自動化が困難であった.今回,心電図波形とドプラ血流情報を組合せてシステム同定をおこない,その予測情報を用いて自動的に外乱を除去する信号処理を新たに開発し効果を確認した.今後自動化の安定性を高めると同時に,左室以外の診断部位についても自動化の検討を進めていく予定である.